現在、米国では音楽市場が好調に拡大している。それをリードしているのが、急成長を続けるスポティファイやアップルミュージックといったストリーミングサービスだ。全米レコード協会によると、2017年の同国総売上に占めるストリーミングサービスの割合は3分の2近くにまでなったという。

ストリーミングサービスの成長に伴うように人気が復活しているのが、ライブ演奏やコンサート市場だ。アーティストたちは音楽配信している企業から、どの国の、どの地域の、どんな年代の人たちが自分たちの音楽を聴いているかという情報を得て、それを参考にライブ会場や規模を決定している。これまで、コンサートビジネスは“水モノ"と呼ばれていた。一部のアーティストを除いて、チケットが売れるかどうかは予測が付きづらいものだったからだ。ところが、音楽配信企業から提供される情報があれば、チケットが売れそうな地域が予測できるようになったのだという。

この傾向は、音楽に限らない。スポーツなどでもライブ、つまり「生観戦」の市場が重要視されている。ビッグデータを活用し、より柔軟にチケット販売をすることで、満足度をさらに高めようとしているのだ。世界のそんな流れに日本のモータースポーツ界もようやく、目を向け始めた。

鈴鹿サーキットは今年秋、節目を迎える。同サーキットでは30回目となるF1日本グランプリ(GP)が開催されるのだ。記念すべきレースのチケットは例年より遅い5月13日に発売を開始した。実はこれが大きな変化なのだ。

これまではF1のシーズン開幕前の3月にチケット販売を始めていた。これは、「長年の慣例」からで、理由があったわけではない。今回、販売開始時期をあえて遅らせた背景にあるのは、近年右肩下がりが続いている入場数を何とか回復したいという思いがある。3月段階ではレースの開催こそ決まっているが、誰がゲストで来るかなどレース期間中に行うイベントについては何も決まっていなかった。ならば、イベント内容をある程度固めてから売り出した方が良いと判断したのだ。

すでに、ジャン・アレジ氏やミカ・ハッキネン氏といった「レジェンドドライバー」がゲストに来ることが発表された。このほか、7月末までに購入した人には、30回目の開催を記念したプラスチック製のアニバーサリーチケットとなる。これまでは紙だったので高級感がある。さらに、チケット発売に合わせてニュースを毎日のように発信した。これは、ウェブや会員制交流サイト(SNS)での拡散を狙ったものだ。海外のレースでは既に行われていることだが、日本のモータースポーツ界も、戦略的にチケットを販売することを遅ればせながらスタートさせた。

シンガポールGPやアゼルバイジャンGPでは、メジャーなアーティストによるライブも行われている。鈴鹿でもこのようなコンサートを実施できれば、レース好きだけでなく音楽ファンも含む多くの人々にとって魅力あるイベントになるに違いない。その観点で考えると、目指すべきはアイドルからロックまで幅広いジャンルの音楽ファンが数多く集まり、それぞれの楽しみ方ができる「音楽フェスティバル」、いわゆる「フェス」なのかもしれない。今回、鈴鹿サーキットが行った変更は小さいものかもしれない。だが、これが大きな変革につながることを期待したい。(モータージャーナリスト・田口浩次)