ゴールの生まれる場面。それは、サッカーというスポーツにおけるハイライトだ。だが、緩くてスカスカの守備が原因の場合は話は別だ。いくら得点が多く見られたとしても、良いものを見たとは必ずしもならない。

一方が策を尽くして攻め込み、受ける側もぎりぎりで攻撃を食い止める。そういう緊張感あふれる攻防が繰り返されるのならば、たとえ0―0の試合であったとしても十分に楽しめる。J1第14節。5月13日に雨中で開催されたFC東京対札幌はまさに、そういう試合だった。

FC東京2位に対し、札幌は3位。昨季順位が13位(FC東京)と11位(札幌)で、選手の顔ぶれも大きく変わっていないことを踏まえれば、リーグ戦も3分の1近く経過した時点で、両チームがここまで上位にいることを予想できた人はいないだろう。だが、ともにサッカーの内容を劇的に変化させることに成功したのだ。

そんな両チームが相対した試合を見れば、この順位にいることが十分にうなずけた。首位の広島にも共通するのだが、これら上位チームは、よく走り、局面での戦いをおろそかにしない。そして、ボールを奪えばスピードに乗ってボールをゴールに向け運ぶ。そこには、ゴールを奪うという意思がはっきり現れている。いたずらにボールを保持するのが目的では決してないのだ。

サッカーを観戦する人の多くは、ピッチでプレーする選手に自分を重ねる。だから、点を狙う意思があらわになったプレーの結果、ミスしても納得し共感する。「自分ならば、ああいう風にプレーするのに」という観戦者の思いとピッチで選手が見せるプレーがシンクロすれば、その時点で得点が生まれなくても試合を楽しめる。

4―4―2のシステムで中央をコンパクトに固めるFC東京。対する札幌は3―4―3でピッチを幅広く使う。フォーメーションこそ異なるが、相手ボールに寄せるプレッシャーの強さ、ボールを奪った後の前への推進力は迫力満点だった。攻守の切り替えが非常に早いので、ピンチがチャンスに、チャンスがピンチにと目まぐるしく変わった。そんな展開が繰り広げられているのだ。観客も当然、ピッチから目が離せなくなる。結果、90分はあっという間にたってしまう。

試合が引き締まったのは、両チームGKの好守にもよる。FC東京の林彰洋と札幌のク・ソンユンは、ともに195センチ。レギュラーとしては、J最長身のゴーリーだ。後半9分にク・ソンヨンが室屋成との1対1を左足でブロックすると、林も後半アディショナルタイムに都倉賢が放ったヘディングシュートを冷静にセーブしてみせた。この長身GKたちが守るゴールは、この日に限っては相手シューターにとってかなりの小さく見えたのではないだろうか。

「正直、久しぶりに楽しかった。ペトロビッチと試合をして、好調な相手と緊張感のあるがっぷり四つになる楽しい試合だった」

試合の後、勝ち点3を得ることができなかったにもかかわらず、FC東京の長谷川健太監督が語った言葉から、試合がいかに濃い内容だったのか伝わってくる。プレーする選手ならいざ知らず、勝利を逃した監督がこのような言葉を笑顔で語るのは、かなり異例だ。

ベンチから見ている人間がこう思うのだ。実際にプレーした選手が面白くないはずがない。タイが誇る158センチの小さなドリブラー、札幌のチャナティップも「今日は楽しいゲームでしたね」とうなずいた。「ほほ笑みの国」のスターらしい最高の笑顔とともに。

昨シーズン、J2降格の危機もあったチーム同士が、わずか半年後には上位でレベルの高い試合を演じる。それを見ていると、この国のトップ・ディビジョンに位置するJ1というリーグのレベルがどこにあるのかが、よく分からなくなってしまう。2位・FC東京に勝ち点10差の37ポイントで、首位を独走する広島も昨年は降格すれすれの15位でシーズンを終えた。

現時点で上位につける3チームは、いずれも今季から新たな指揮官を迎えたチームだ。通常、新監督が自分のスタイルをチームに定着させるためには、それなりの時間が必要とするはず。ところが、城福浩、長谷川健太、ペトロビッチの各監督は、短期間で自チームに戦術を定着させ結果を出している。チームと監督というのは、相性が重要なのだろう。

現在の好調の要因について、札幌の都倉は今季初勝利を収めた第4節長崎戦が大きかったと振り返る。「勝つという成功体験を、みんなで共有できたことが大きかった」のだという。内容だけでなく結果が伴うことで、選手とチームは初めて自信を得るのだ。

局面で戦ってボールを奪い、縦に速くゴールを直線的に狙う―。上位3チームが展開するサッカーを言葉で説明するとこうだろう。そこには、どこか既視感がある。これは「デュエル」を基本とした前日本代表監督のサッカーと、同じではないか。ならば、ハリルホジッチのサッカーは、結果を出すという意味では、理にかなっていたのかもしれない。

いまさらそんなことを言っても、もう遅いのだが…。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。