ワールドカップ(W杯)ロシア大会の開幕まで、いよいよ3カ月を切った。サッカーを愛好する仲間の多くは、物事を4年間のサイクルで考えるという。だから、感覚的に一般の人より歳月が経過するスピードが早い気がするのだという。

筆者自身も4年前が、ついこの前のような感覚がある。あの時、ザッケローニ監督が率いたチームは、大きな期待を集めてブラジルW杯に旅立った。結果は1分け2敗の惨敗。1次リーグで敗退した日本代表は、帰国した際に歓迎を受けることはなかった。

今回のハリルホジッチ監督が指揮するチームは、ロシアでどのような戦いを演じるのだろうか。過去5回のW杯はメンバーも含め、ある程度の予想ができた。だが、今回に限っては正直、未知な部分が多い。

イメージできない最大の理由は、今回のチームがW杯のアジア予選を通じてメンバーの入れ替わりが激しかったからだろう。特に最終予選ではベテランを外し、若返りを図るかに思えた。しかし、3月23日にマリ、27日にウクライナの両国とベルギーで対戦するメンバーからは、ハリルホジッチ監督の予選終盤のお気に入りだった若手の井手口陽介と浅野拓磨が外れた。これは、同監督の「所属チームでの出場がない選手は選ばない」という従来の選考基準が貫かれたという意味ではいいことなのだろう。一方で、「ハリル色」が薄れた感もある。

ベルギー遠征には、代表キャップ数の少ないフレッシュなメンバーも選ばれている。Jリーグからは宇賀神友弥、車屋紳太郎、植田直通、大島僚太、三竿健斗、小林悠、杉本健勇。欧州組では初代表の中島翔哉、柴崎岳、森岡亮太。それぞれに能力を持った選手であることは間違いないだろう。

ただ、このメンバーにW杯本番で主力となって戦う選手が含まれているかというと、その姿をイメージすることが正直なところ難しい。冷静になって振り返ると、日本代表はこの4年でチームの中心になる新たな選手を見いだせなかった。育てることもできなかった。それはすなわち、日本サッカーが停滞していたということになる。この4年、何をやっていたのだろうか。

ベルギー遠征のメンバー発表で、多くの人が「間に合ってよかった」と思った選手の名前があったのは数少ない希望だろう。昨年9月以来、約半年ぶりに代表復帰した本田圭佑だ。

ハリルホジッチ監督は、会見でハメス・ロドリゲス、マネ、レバンドフスキら、W杯で戦うチームで主力を張る選手の名前を挙げ、「対戦相手にはスペシャルな選手がいる」と語った。確かに、本田はその選手たちと比べるとレベルは劣るかもしれない。それでも日本の選手の中では、間違いなく「違い」を生み出す可能性を最も秘めた選手であることは多くの人が一致するところだろう。

出場機会を閉ざされたACミラン時代、このままではロシアW杯は難しいのではと思った。ところが本田という選手は、マイナス要素をいつの間にかプラスに転じさせることができる。恐ろしい意思の強さだ。

人を使うばかりではなく、独力での推進力をハリルホジッチ監督が求めていることが分かると、移籍したパチューカでの本田のプレーは明らかに変わった。力強くもテクニカルなドリブルでゴールを決めるなど、いままで見たことのない姿を披露している。TV映像などで活躍の場面を目にするたびに、プレーの質に新たな要素が加えられた感じすらする。

W杯本番の試合展開を予想すれば、粘り強く守って数少ないチャンスでゴールを奪うことにしか日本は勝機を見いだせないだろう。チャンスの数も2、3回。そこで1、2点を確実に決めなければ勝ち点3を得ることは難しい。その制限のなかで重圧を受けながらもゴールを決める。本田は出場した過去2度のW杯でそれを実践してきた。南アフリカ大会のカメルーン戦とデンマーク戦。そして、ブラジル大会のコートジボワール戦。さらにアシストを見ても2大会連続で岡崎慎司のゴールを演出している。過去5大会のW杯で日本が挙げた総ゴール数は14。そのうちの5点(3得点2アシスト)に絡んでいるのだ。

街角に立っていれば、本人がパワースポットになりそうな選手。どのような競技にも共通するのだが、大舞台に強い選手というのは存在する。何の根拠もないのだが、本田はそのような人物のような気がする。もちろん、その証明を左足のFKからしてくれれば最高なのだが、チームメートに期待を抱かせる選手の存在は、大会を勝ち抜く上で必要だろう。

W杯の最終登録メンバー23人が発表されるのは5月31日。ハリルホジッチ監督はベルギー遠征のメンバー発表で、本田への期待について「得点を取る、取らせること」と語った。点を取り、点を取らせる能力の一番高い選手。日本人の多くは、それが本田圭佑だということを知っている。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。