周囲からの高い評価よりも、一つの「実」をつかみ取ったという事実の方がチームの進化を推進する力につながるのかもしれない。そう、タイトルを取ることでしか得られない自信だ。

世界のサッカーシーンに目を向けると、1998年のフランスと2010年のスペインが好例だ。ワールドカップ(W杯)で初めて世界王者に輝くと、その2年後に開催された欧州選手権も制して「二冠」を成し遂げている。この両国は常に魅力的なサッカーを披露するものの、同時に“勝負弱い"面も持ち合わせていた。ところが、W杯チャンピオンという称号を得てからは、間違いなく強さのレベルが上がった。このことはアルゼンチンにもいえる。これらの国は世界一になったことで、「サッカー人格」が重厚になったといえるのではないだろうか。

その意味で2月10日に行われた富士ゼロックス・スーパーカップは注目だった。1年前はクラブの歴史に「優勝」という文字がなかった両チームが対戦したからだ。J1チャンピオンの川崎と天皇杯王者のC大阪。C大阪は昨季のYBCルヴァン・カップも制しているので二冠なのだが、この両チームが身に付けた自信というものがプレーから垣間見られることを期待していた。

昨年11月4日のルヴァン杯決勝。今回と同じ埼玉スタジアムで両チームが相対し、C大阪が2―0で勝利し、C大阪としては初となるタイトルを勝ち取った。しかし、内容を見るとポゼッション力で勝る川崎がボール支配率67%を記録するなど試合を支配。C大阪はカウンターで勝機を探る展開だった。メンバーを見れば、C大阪の中盤から前にかけては代表クラスのタレントがそろう。技術的には問題ないのだから、なぜもっとボールをつながないのかという疑問を多くの人が抱いたのではないだろうか。

しかし、物事には順番というのがあるようだ。昨年に引き続き指揮を執る尹晶煥監督は、1年目の主眼を「守備の安定」に置いた。2年目となる今季はさらなる進化を目指し、「ボールを保持して相手陣内より長い時間プレーする」を新たな目標に定めている。裏付けるように、ゼロックス杯で同じ川崎を相手に見せたサッカーは約3カ月前とはまったく違うスタイル。かなり魅力的な戦い方に変わっていたのだ。

昨年までのイメージを持って見ると、「どちらが川崎だろう」と見間違えてもおかしくない。試合全体を通せばC大阪が正確にパスをつないでチャンスを作っていく内容だった。そしてそのポゼッションの前段階として見落とせないのが、激しいプレスからのボール狩りだ。2トップの柿谷曜一朗、杉本健勇を筆頭に、前線からの献身的な追い込みが川崎の自由を奪う。そしてマイボールになれば、清武弘嗣や水沼宏太ら、サッカーのツボを知っている選手が相手にとって嫌らしい展開を作り出していく。

前半26分の先制点。まさにC大阪の新しいスタイルからのゴールだったのではないだろうか。起点は左サイドの丸橋祐介のスローインだった。そこから杉本のポストプレーの落としを山口蛍が右足でたたき込むまでに、10本のパスがつながった。見事なパスワークがゴールで締めくくられるのは、観客にとっても見応えがある。加えて、その途中ではキックの名手である清武や山口が見ほれるほど高精度のサイドチェンジを繰り出すので、試合のダイナミックさも感じられるのだ。

確かにゼロックス杯は公式戦とはいえども、シーズン開幕を告知する色合いが強い試合だ。両チームはまだ調整段階であり、選手交代の人数も5人と多い。ともにこの枠を目いっぱい使った関係で、終盤にはキックオフ時から10人の選手が交代した。このため、チーム自体が変わってしまい、緊迫感は少し薄れた。その意味で川崎の本来の姿は見られなかったが、少なくともC大阪の変化については分かりやすかった。

試合は3―2の最少得点差。スコアだけを見れば接戦といえるが、C大阪が川崎を上回った印象が強かった。その試合について尹晶煥監督は「フロンターレ(川崎)のコンディションが万全でなかった」としながらも「去年やってきた部分、その自信を持ちながら試合ができた」と手応えを口にした。

一方、好感触を得た様子だったのがキャプテンの山口。ゲーム終盤に川崎から押し込まれた場面についても「ルヴァン杯決勝のように一方的になることはなかったので良かった」と振り返るなど、この日の戦いぶりにチームの成長を確信しているようだった。

生みの苦しみを乗り越えれば、次は楽になる。タイトルは一度獲得すれば、次はついてくるとよくいわれる。自信に裏付けられたC大阪の変化。それを見て、次の桜が満開になる日を待つ人は多いはずだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。