「昭和の大横綱」のDNAを継承する10代の逸材が、1月の初場所でプロデビューを飾った。

元横綱大鵬の納谷幸喜氏(故人)の孫である納谷(大嶽部屋)が、前相撲で初土俵を踏み3戦全勝。元横綱朝青龍のおいの豊昇龍(立浪部屋)をすくい投げで破るなど、取り口も堂々たるものだった。

3月の春場所では序ノ口の番付にしこ名が載る。優勝32度を誇る祖父と比較され続け、大相撲ファンの注目を一身に浴びることになる。

初場所8日目の1月21日の新序出世披露では、現役時代の大鵬が身に着けていた化粧まわしを締め、両国国技館に声援や拍手が鳴り響いた。

納谷は「すごくありがたい。自分の取組をしっかり見に来てもらえるように頑張る」と落ち着いた様子で意気込んでいた。その日に同部屋の先輩力士の不祥事が発覚するとは、夢にも思っていなかっただろう。

夜7時のNHKのトップニュースで、元幕内で十両の大砂嵐(大嶽部屋)が1月上旬に長野県内で無免許運転し、追突事故を起こした疑いがあると報じられた。

記者会見では代理人弁護士を通して妻の運転だったと反論したが、長野県警に「自分が運転した」と容疑を認めたとみられ、書類送検される見通しだという。

日本相撲協会の内規では現役力士の運転は禁じられており、師匠の大嶽親方(元十両大竜)への報告も怠っていた。

騒動の影響で翌日から休場した大砂嵐は幕下転落が濃厚。加えて厳しい処分も待っているだろう。

筆者は初場所6日目の1月19日、今年初白星を挙げた本人に取材をした。大鵬部屋の流れをくむ大嶽部屋で、2012年に初土俵を踏んだ大砂嵐には、負けられない理由があった。13年に72歳で亡くなった納谷幸喜氏の命日だったからだ。

「おーい、ちゃんと四股踏んでいるか!と言われたりね」。薫陶を受けた思い出を振り返り、部屋に帰ってから仏前で手を合わせ「これからもっともっと頑張ります」と報告するつもりと話していた。

筆者と同じ1992年生まれで、母国のエジプトから遠く離れた地で相撲に励んでいる。特別な日に1勝をもぎとった姿を見て「頑張れ、大砂嵐」と心の中でつぶやいていた。

それだけに、弟弟子の晴れやかな門出に水を差したのは憤りを感じざるを得ない。納谷には「教わったことをちゃんとしたら、すぐ関取になれる」と、大嶽親方の指導に誠実に従う重要性を説いていたが、それもむなしく思い出される。

協会の聴取を終え、深夜に部屋に戻ってきた大嶽親方は、殺到する報道陣に対し「本当にショックで頭が真白な状態」と吐露した。

質問に一つ一つ丁寧に答えていったが、納谷の新序出世披露の日に騒動が発覚したことを聞かれると「ふー」と大きく息を吐いた。言葉が出てこない。しばらくして「わが部屋というよりも、相撲を見に来てくれているファンの方々に本当に不愉快な思いをさせてしまった」と力なく話した。

監督責任を問う声もあるだろうが、何ともいたたまれない気持ちになってしまった。

初場所はジョージア出身の平幕栃ノ心が30歳で初優勝を飾ったが、場所中に所属する春日野部屋では過去の力士の傷害事件が明らかになった。

土俵外の話題が、奮闘する力士の足を相変わらず引っ張っている。今年から相撲担当になり「大変な現場に来たな」との思いがある。

松坂 和之進(まつざか・かずのしん)埼玉県出身。大学では学生スポーツ新聞サークルに所属し、2015年に入社。大阪社会部を経て、16年は大阪運動部でサッカーや阪神などを担当。17年末に福岡運動部に異動し、ソフトバンクや相撲を取材する。