イングランド・サッカー協会(FA)が今年1月に初めて導入したビデオ判定が、早くも物議を醸している。

ビデオ・アシスタント・レフェリーの頭文字を取って「VAR」と呼ばれるビデオ判定は、得点やPKの有無など試合結果を左右する重大な場面が対象で、既に国際サッカー連盟(FIFA)のクラブワールドカップ(W杯)やコンフェデレーションズカップで採用されている。

ドイツやイタリアのリーグでも実施しており、世界の潮流に乗ってイングランドでもFAカップとリーグ・カップの一部の試合で試験的に行われ、1月8日のブライトン対クリスタルパレスでついに初めてお目見えした。

同16日のレスター対フリートウッドではビデオ判定によるゴールが初めて生まれた。

レスターが1―0とリードして迎えた後半32分、リヤド・マレズのスルーパスにケレチ・イヘアナチョが抜け出して左足で流し込んだが、副審が旗を上げて一度はオフサイドと判定された。

レスターの選手はあまり抗議することなく自陣へ戻ってプレーが再開するのを待っていたが、主審がビデオ判定の結果を無線で確認すると笛を吹いてゴールを認定。レスターの選手は少し間を置いて状況を理解すると、戸惑いながらも喜びを分かち合った。

一連の様子をベンチから見ていたレスターの岡崎慎司は「サッカーは人が判定するものだからミスもあるだろうと考えるかもしれないが、ミスがなければ選手としてはありがたい。そうしていかないと後で見て悔いが残る」と、選手目線から導入を好意的に受け止めた。

英国のメディアでは「VARによる歴史的な初ゴール」と報じられ、極めて難しい判定を誤った副審に対する批判もほとんどなかった。

だが、翌日のチェルシー対ノリッジにおける判定で新システムに対して一気に懐疑的な目が向けられた。

最も議論を呼んだのが1―1で突入した延長でのシーン。チェルシーのビリアンがペナルティーエリア内で仕掛けると、相手DFのタックルを受けて倒れた。すると主審はビリアンが反則を受けたふりをする「シミュレーション」をしたと判断してイエローカードを提示。ところが映像には相手と接触して足を引っかけられていることがはっきり映っていた。にもかかわらず判定が覆ることがなかったため、VARの存在意義が問われることになった。

遠隔地でモニターの映像を確認するVARの担当者は、さまざまな角度から44秒の間に13回も検証したという。

その結果「明白な間違いではなかった」として主審の判定を支持した。一方、競技規則を定める国際サッカー評議会(IFAB)のテクニカル・ダイレクターを務める元審判員のデービッド・エレリー氏は、英タイムズ紙に「このようなケースではピッチ上で再検証することを推奨している。その上で(1)警告を確定する(2)警告を取り消してPKを与える(3)警告もPKも与えずに試合を再開する―のいずれかの判断を下してもよかった」と指摘した。

この試合ではチェルシーのペドロとアルバロ・モラタもシミュレーションによる警告を受け、その後に二人とも2枚目のイエローカードで退場した。

2部リーグのノリッジが後半ロスタイムに追い付くなど大健闘し、PK戦の末にチェルシーが熱戦を制したが、結局は判定ばかりに注目が集まって後味の悪さが残った。

時代とともにプレーのスピードが格段に上がっていくにつれ、審判に求められる仕事も困難さが増している。

最新技術を取り入れることは必然だが、テクノロジーに頼る機会が増えると、審判のレベル向上の妨げになるとの懸念もある。

BBC放送の長寿番組「マッチ・オブ・ザ・デー」では、解説者の元イングランド代表主将アラン・シアラー氏が「VARはめちゃくちゃだ」と切り捨てたが、ビデオ判定を使う側も見る側も、慣れるまでまだしばらく時間がかかりそうだ。

田丸英生(たまる・ひでお)1979年生まれ、東京都出身。共同通信名古屋、大阪運動部を経て2009年12月から本社運動部でサッカー、ボクシング、大相撲などを担当。17年12月からロンドン支局でスポーツ全般を取材。