いかなる状況に置かれたとしてもクールで他の者を寄せ付けない雰囲気をたたえている―。

あるべきリーダー像というものはおおむね、こういう言葉に当てはまるのではないだろうか。その視点から考えると、現在の日本代表にはかなり異質のリーダーがいる。

現在、日本で行われている東アジアE―1選手権。男子日本代表の選手にとってこの大会は、東アジアの王者を決めると同時に約半年後に迫ったワールドカップ(W杯)ロシア大会に出場する23人の登録メンバー入りを目指すサバイバルマッチの意味合いを持っている。

アジア予選を見るまでもなく、ロシアでの本大会に臨むチームが海外組の選手をベースに編成されることは疑いない。Jリーグ組が本大会の登録メンバーに名を連ねることは簡単ではないだろう。だからこそ、今大会に出場している選手たちには、悔いなく自分の持ち味を最大限に発揮してもらいたい。

今回、招集された23人のうち10人は国際Aマッチの出場経験がない。そして、出場経験がある選手もそのキャップ数はほとんどが10以下。そんなチームで異彩を放っているのが、今野泰幸だ。来年1月で35歳になるベテランは、12月12日の中国戦で2005年の初選出からのキャップ数を92に伸ばした。16年を除きコンスタントに招集されてきた代表では、W杯出場も2度(10年南アフリカ、14年ブラジル)も果たしている。その今野が経験に裏打ちされた「いぶし銀のプレー」で、決して強いとは言えないが負けない今大会の代表を引っ張っている。

今大会でキャプテンマークを巻く10歳年下の昌子源を始めとする若いチームメートからも「コンちゃん」と呼ばれるほど、親しみを持たれている今野。最年長にもかかわらず、いわゆる「いじられキャラ」としてチームを和ませているが、プレーにおいては格の違いを見せつけている。圧倒的に押された12月9日の北朝鮮戦では終了間際の井手口陽介の決勝点をアシスト。12日の中国戦では、2ボランチの後ろに控えるアンカーとしてプレーした。ハリル体制では初となるポジションにもかかわらず、「結構、楽しかったです」と余裕を見せた。

出身は宮城県。東北人らしく性格も至ってつつましい。ハリルホジッチ監督は、このチームのキャプテンを年長で経験豊富な今野に任せるつもりだった。しかし、「自分がキャプテンマークを巻いてよいのだろうか」という疑問を持った今野は指揮官と話し合い、この栄誉を昌子に譲ったのだ。

それでも、今野はやはりピッチ上のリーダーだった。フィジカル面では日本に勝る北朝鮮や中国の選手と1対1で相対しても、無類の体の強さを発揮して渡り合った。危険地帯を察知する能力の高さに加え、相手に寄せる速さと、絶妙な体の入れ方。そのレベルはピッチに立つ22人の中で際立っており、「さすが唯一のW杯経験者」と周囲をうならせるに十分だった。

中国戦後の記者会見。ハリルホジッチ監督は、どうしたのだろうと思うほど上機嫌だった。そして、今野に対して最大限の賛辞を述べた。

「タクティクスのディシプリンが素晴らしかった。守備も良かったし、アンカー役でしっかり攻撃もオーガナイズしていた。(約2年ぶりに代表復帰し得点も決めた3月23日の)UAE戦のような今野が戻ってきた。このパフォーマンスを数カ月続けてほしい」

年齢もあって、ロシアW杯で今野が代表入りするのは無理。ハリルホジッチ監督自身がそう思っていたのではないだろうか。ところが、守備に攻撃に、なんでも高いレベルでこなしてしまうベテランのパフォーマンスは、一向に衰えを知らない。その一方で経験値はますます上がるばかりだ。

ロシアでの本大会。中盤のアンカーとしてのファーストチョイスは、キャプテンの長谷部誠だろう。しかし、その長谷部にも故障という不安がつきまとう。そのような大事な時期に、マルチな能力を備える計算のできる男が戻ってきてくれた。2ボランチの一角、インサイドハーフ、アンカー、センターバック、そしてサイドバック。今野がこれまで日本代表で務めてきたポジションだ。このような複数の役割を任せられた選手は他にはいない。指揮官が口にした「数カ月」という言葉を考えれば今野がロシアに行く可能性は高いだろう。

3度目となるW杯でメンバー入りがかなえば、日本人では歴代最年長となる。加えて、キャップ数100の大記録も見えてきた。だが、周囲のそんな喧騒(けんそう)にも「コンちゃん」はあくまでも自然体だ。メンバー入りへの期待が高まるロシアW杯について問わると「知らない。監督に聞いてください」と一言。抜群の存在感を放ったピッチ上から一転、はにかみながらほほ笑んだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。