12月3日に2020年東京五輪の代表選考会「グランドチャンピオンシップ(GC)」の出場権を争う「GCシリーズ」の一つ、福岡国際マラソンが行われた。

大迫傑(ナイキ・オレゴンプロジェクト)神野大地(コニカミノルタ)設楽啓太(日立物流)ら、最近の箱根駅伝を彩ったスター選手たちが集まり、幼い頃から箱根駅伝に親しむ私の心は躍っていた。

そんな大会で日本勢最高の3位となったのは、日本歴代5位の2時間7分19秒を出した大迫だった。

GCへの挑戦権も得たが、この記録が持つ価値はそれ以上に高いと言える。

1キロ3分を切ることもあるハイペースの中、マラソン2度目の大迫は続々と日本人選手が脱落するのを横目に世界のトップランナーに勝負を挑んだ。

12年ロンドン五輪金メダルのスティーブン・キプロティク(ウガンダ)に9秒差で敗れたが、「タイムは残り400メートルまで考えていなかった」と、最後まで食らいついた。

記録だけを見ると世界との距離は遠く感じるかもしれない。だが、レース展開の違いや26歳という若さを考えると、今後その距離が縮まる期待感は大きい。

マラソンは「高速時代」のまっただ中にある。

5月にはイタリアで2時間突破に挑むスポーツ用品大手ナイキの企画「ブレーキング2」が行われ、リオデジャネイロ五輪金メダルのエリウド・キプチョゲがデニス・キメット(ともにケニア)の世界記録を2分32秒上回る2時間0分25秒という驚異の記録を出した。

惜しくも目標達成には届かず、また公認要件を満たさないため世界新記録とはならなかったが、トップレベルの速さをまざまざと見せつけた。

一方で日本の男子マラソン界は高岡寿成の2時間6分16秒の日本記録樹立から15年がたつが、更新する選手が現れるどころか、05年世界選手権ヘルシンキ大会後は、主要国際大会でのメダル獲得がない。

若い大迫の日本歴代5位は救世主が現れたと解釈しても良いだろう。早大OBの瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、「100メートルの桐生君のように日本人選手の目標になってほしい。日本記録更新は時間の問題」と太鼓判を押した。

4年連続で箱根駅伝を走った早大時代の大迫の姿が頭に浮かぶ。当時からスピードランナーとして定評があり、甘いルックスから女性ファンも多かった。

23歳で「プロ」転向と同時に渡米。実業団で駅伝を走るという長距離界の従来路線から外れ「異端児」と扱われた。

だが、賛否両論などどこ吹く風。15年に5000メートルの日本記録を出し、初マラソンだった今年4月のボストン・マラソンで2時間10分28秒の3位など、結果を出し続けた。

異国の地で武者修行に励む大迫の顔立ちは、年々たくましさが増しているように思える。

福岡国際マラソンから一夜明けた4日昼、同市内のホテルで私はその異端児と初めて対面した。

早大の大先輩、瀬古氏と前日はあいさつをした程度だというので、称賛の言葉を伝えると「記録も大事だけど、毎回先頭争いをすることが大事。瀬古さんもそういう選手だった。まねするわけではないけど、それが目指すべき姿」と明快だった。

その堂々とした受け答えに、私はホテルを後にする大迫の背中を見送りながら思わず笑みがこぼれた。

同時に自分と同世代でありながら、プロ意識の高さと先人への尊敬の念を示す姿勢に感心した。

彼のマラソン人生はまだ始まったばかり。その生きざまを見逃したくない気持ちが一層強くなった。

鍋田 実希(なべた・みき)1992年生まれ。東京都出身。2015年に共同通信社入社。札幌支社編集部での勤務を経て16年5月に本社運動部へ。同年12月から福岡支社で陸上競技、サッカー、高校野球、パラスポーツなどを担当。