11月27日のプロ野球オーナー会議で、第14代コミッショナーに日本取引所グループ前最高経営責任者(CEO)の斉藤惇氏(78)の就任を全会一致で決めた。ビジネスに精通した人材登用を強く主張するパ・リーグが主導した結果だった。

▽財界からは2人目

ファンから見てプロ野球コミッショナーはどんな存在に見えているのだろか。

近鉄が消滅し楽天が誕生した2004年の球界再編騒動では、コミッショナーが一部球団の意向に沿う形に固執して初のストライキに突入したのは記憶に新しい。最近では理念すら語る人物はなく、不祥事などの際に注目される存在になっていると思う。

経済界からは約40年前の金子鋭氏(当時富士銀行会長)以来となる。

野球通なら金子氏の名前を聞くと「あの江川騒動の時のコミッショナー」と思い起こすに違いない。野球協約をねじ曲げて巨人が江川卓投手を獲得する暴挙にいったんは「無効」と裁定しながら、ドラフトで指名した阪神から巨人への移籍を、その権限で実現させた、その人だ。それ以来、財界から選ばれることはなかった。

▽公平に徹した下田氏

金子氏の後任の下田武三氏は駐米大使を務めた大物外交官で最高裁判事。公平に徹することを身上として、パの指名打者制(DH)を日本シリーズに採用するなど、次々と球界改革に着手してセのオーナーと衝突し辞めさせられた。

それ以来「何もやらないコミッショナー」が重宝されてきたのが実情といっていい。

ソフトバンクの孫正義氏、楽天の三木谷浩史氏、DeNAの南場智子氏らビジネスの現場にいるオーナーにとっては、プロ野球ビジネスの拡大に手をこまねいているコミッショナーは物足りない存在に映っていたことは間違いない。

▽やり手は困る

一方で、下田氏のように球団の意向を無視してでも球界を変革されては困る球団はある。

米大リーグのように「30球団が運命共同体で一緒に潤う」では、球団を持つ親会社のうまみ、つまり宣伝媒体としての役割に支障を来す恐れがあるからだ。

だから、球団の自由にさせない、やり手のコミッショナーでは困るのである。

人気面でセに大きく水をあけられていたパが試行錯誤を繰り返し、セの背中を間近に見る位置に来た。無難な人選を目論むセにパが「ノー」と言ったのが今回の人選だった。

▽プロ野球界との接点はなし

野村証券副社長、産業再生機構社長、東京証券取引所社長などを歴任した斉藤氏をほとんどの球団オーナーはその人となりを知っているだろうが、実は球界との接点はゼロだ。

産業再生機構社長時代の04年に、大手スーパーのダイエーの支援が取りざたされている頃にシーズンオフに福岡ドームを見に行っている。

ダイエー本社の関係者に「収益を生まないと、これは単なるコンクリートの塊にすぎない」と語ったとか。親会社と球団との関係を目の当たりにした経験は貴重だが、プロ野球とのかかわりはそんなエピソードがあるだけだ。

▽球団側の期待

オーナー会議議長の日本ハム・末沢寿一オーナーは「スポーツビジネスの振興で指導的役割をお願いできる貴重な人材」と高く評価している。

斉藤新コミッショナーは就任会見で「プロ野球の隆盛をどう高めていくかが使命の一つ。一律に商業化して繁栄させればいいという問題ではないが、ある程度の利益を上げて選手に報いることも考えないといけない」と語る一方「学童期の野球離れもあり、12球団とアマ野球が連携して取り組まなければいけない」と語った。今年7月からコミッショナー顧問に就いており、いろいろ勉強したのだろう。

斉藤氏は民間企業にコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を導入した当人で、八百長や有害行為などへの危機意識も強い。

▽米国通

国際ビジネスマンとして世界を相手にしてきた斉藤氏は、早期の渡米を考えているそうだ。

米大リーグの総収入は今や1兆円を超えている。その組織を率いるマンフレッド・コミッショナーとは共通の友人がおり「一時の低迷期から人気を回復した米大リーグの経営再生方法を聞きたい」と、教えを請う考えのようだ。

非常に興味深い話だが、運命共同体として常に利益分配と戦力均等化に精力を注ぐ米大リーグと、各球団単位で動くことを譲らない日本とでは構造が違い過ぎて、果たして参考になるのかと心配だ。一部球団からの反発が容易に想像されるからだ。

もし米大リーグの共同体がいいとすれば、しっかりとした理論武装が必要。つまり理念を持っているかどうかが問われる。

▽具体的な目標を

パ6球団が07年に立ち上げた「パシフィックリーグ・マーケティング株式会社」や日本野球機構(NPB)が主導して12球団が参加する「侍ジャパン」のグッズや放送権管理を行う「NPBエンタープライズ」などを発展させることになるが、新コミッショナーが踏み込んだビジネスモデルを提案できるかも注目される。

期待したいことがある。プロ野球の将来像、つまりビジョンを示せるかどうかである。地域スポーツの発展を主眼にしたJリーグの「100年構想」のようなものである。

プロ野球の拡大か縮小か。球団各自の3軍問題やアマ球界との関係構築などを含め「何年までにこうしたい」と、具体的な目標をファン、選手、球団に示してほしい。

田坂 貢二(たさか・こうじ)のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆