11月に入って、日本ボクシング界を代表する二人の名ボクサーがそれぞれの去就を明らかにした。

前世界ボクシング評議会(WBC)バンタム級王者の山中慎介(帝拳)が現役続行を決意すれば、現役の世界ボクシング協会(WBA)フライ級王者の井岡一翔(井岡)は王座返上を発表した。

昔から「ヒーローの引き際」は難しいテーマといわれているが、今回の両者も大いに悩んだ末の決断だったようだ。

まず山中。8月、痛恨のTKO負けで13度目の防衛に失敗し、具志堅用高の持つ世界王座連続防衛の日本記録に並べなかった。

そのまま引退も考えられたが、その後、新王者ルイス・ネリ(メキシコ)が禁止薬物に陽性反応を示したため、態度を保留していた。

結局、王座交代は認められたが、WBCが即時再戦の交渉を指示してきた。この決定に山中は再びリングに上がることを決めた。

「ネリと再戦したかった。今は本当に熱くなれる」と力強く再起を口にした。

35歳の山中はおそらく勝敗に関係なくラストファイトになる可能性が高い。精神的な緊張感を保つのも難しくなってくる年齢だ。

そういう意味では今回、「ネリへの雪辱」という最高のモチベーションがある。「神の左」で一時代を築いた男がどのようなボクシングを見せてくれるのか。容易な相手ではないが、山中のプライドに注目したい。

井岡の王座返上には驚いた。恒例となっている大みそかの防衛戦が計画されていたが、父親で井岡ジム会長の一法氏は、「(結婚後)練習がコンスタントにできていない。準備不足」と説明した。

夏場以降、二人は何度も話し合いを重ねてきたという。一法氏は「まだ引退ではない。本人にやる気さえあればいつでも教える。しかし、このままでは引退しかないだろう」と切実な気持ちを明らかにした。

井岡は一体、どうしたのだろうか。2015年4月、世界3階級制覇を達成。今後は4階級制覇を視野にしているのではという声もあった。

今年5月、歌手の谷村奈南さんと結婚。闘志が衰えたのだろうか。WBCフライ級王者、比嘉大吾(白井・具志堅)との夢の対決も消えてしまった。

あれだけの才能である。もう一度戻って来てほしい。それがファンの願いだろう。(津江章二)