数字として表される結果だけを見れば、かなりの重症だ。今季リーグ戦の22試合で1871分間に出場し、いまだノーゴール。しかも、その選手のポジションは、2列目のサイドアタッカーなのだ。得点を期待されているのに無得点が続いているとなると、通常ならポジションを失いそうなものだ。しかし、常に起用されている現実を見ると、チームに対しての貢献はかなり高いのだろう。唯一欠けているのがゴールということだけか。

チームにとって特別な背番号である10。今シーズン、クラブのレジェンドからそれを受け継ぎ、キャプテンマークを巻くことなったJ1横浜Mの斎藤学。昨季のリーグ戦で10ゴールを挙げたドリブラーがゴールから見放されている。今季、ネットを揺らしたのは天皇杯3回戦のJ3沼津戦での2回だけ。リーグ戦では得点を挙げていない。

確かにシーズン序盤に比べると、強引にでもフィニッシュに持ち込もうという場面が減ったかもしれない。結果が出ないことで、シュートに対して少し消極的になっているのだろうか。だからと言って、サイドアタッカーとして相手に与える脅威が物足りないわけではない。むしろ、十分過ぎるほどだ。

8月26日に行われたJ1第24節、横浜MがFC東京を1―0で下した試合。両チームともに、見せ場はそれほど多くはなかった。その原因について横浜Mのモンバエルツ監督は「FC東京が5―3―2の守備ブロックを敷いたから、遅攻で崩すのは容易ではなかった」と分析。そのなかで「左サイドは機能していた」と語っていた。攻めあぐねた試合で指揮官が与えた及第点。その左サイドというのは斎藤のエリアだ。

得点がないことを除けば、相手にとっては恐ろしい存在だ。Jリーグでは珍しい、純正の左右のウイングプレーヤーを置く横浜Mの布陣。右翼のマルティノスがスピードでスペースに突き抜けるのとは対照的に、左翼の斎藤は密集を切り裂くプレーが持ち味だ。カミソリのような鋭い切れ味のドリブルは、まさに“ブランド化"されているといっていい。

10番が左サイドからドリブルでカットインしてくると、相手守備陣は「マナブ」という名前を意識してむやみに足元に飛び込むことはない。飛び込んであっさりと置き去りにされるDFの姿を、すべてのチームの選手がスカウティングのVTRで脳裏に焼き付けているからだ。

FC東京戦でもマナブ・ブランドは威力を発揮した。後半7分、左サイドからカットインした斎藤の仕掛け。マークするFC東京の徳永悠平は一定の距離を保ちながらも、かわされることを恐れて間合いを詰められない。相手が間合いを詰めてこないということは、フリーと同じ状況だ。周囲を見る余裕のある斎藤は、逆サイドへ丁寧なラストパス。フリーで走り込んだマルティノスがこれを外してしまったが、まさに1点ものだった。

決定機を逃しても再度で斎藤がボールを持てばチャンスは作れる。この日、唯一のゴールとなった後半38分の決勝点。起点になったのは斎藤だった。

「あのときはマナブ君から。ドリブルをしながら、あの人は周りが見えるので。いいタイミングでパスをくれた」

左サイドでDF2人を引きつけた斎藤の横パスを受けて、左サイドのスペースに抜け出た扇原貴宏。レフティならではのタイミングと球筋のクロスで、ウーゴ・ビエイラのヘディングシュートを演出したボランチも起点となった斎藤のプレーをほめたたえる。その言葉を聞いていると、このチームの攻撃が誰によって創造されているかが分かってくる。

それにしても面白い現象だ。攻撃のエースがリーグ戦の3分の2以上を終えて、いまだ無得点。それなのにチームは2位にいるのだ。この日で5試合連続の完封試合を演じている横浜Mを見ていると、守備力はいかに勝ち点に直結するかということだ。24試合で失点はわずかに17。これは2番目に少ない磐田の22失点を大きく引き離している。

横浜Mの守備陣が見せる集中力の高さ。それは、他チームとはレベルが違う気がする。例えるならば、刃が一触れすれば命を落とす剣豪同士の真剣勝負のようだ。そんな場面は後半15分にもあった。FC東京の大久保嘉人が、高萩洋次郎の縦パスを受け抜け出そうとした場面。浮いたボールに瞬時に反応したのが中沢佑二だった。この一分の隙も見せない剣の達人のような39歳を、ワールドカップ(W杯)出場を懸けた連戦に臨む日本代表のメンバーに加えたとしても異論はなかっただろう。

そのサッカーが魅力的かといわれれば、意見は分かれるだろう。それでも14試合連続負けなしという結果はそう簡単ではない。同じスタイルのチームが多いJリーグで、現在の横浜Mは異色の存在だ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続。