巨人は酒に酔って右手を負傷し訪れた東京都内の病院で暴れ、警備員にけがを負わせたとして傷害と器物破損の疑いで書類送検された山口俊投手に対して、8月18日に今季終了までの出場停止と1億円を超える罰金および減俸の処分を発表した。

厳しい処分だと思った。山口投手の酒を飲み、けがをさせ、木のドアを蹴って壊した行為に弁解の余地はないが、被害者との示談も成立していたからだ。

▽選手会が抗議

ただ、球団が事態を重く見た理由もある。事件が起こったのは7月11日。「同18日の予告先発投手」と発表された山口投手が球団に事件を報告していなかったのだ。

本人は「けがをさせるつもりもなくドアを蹴った記憶もない」ことから軽く考えていたようだ。

しかし、報告を怠った理由だけで厳罰処分を下した訳ではないと思う。

労組日本プロ野球選手会が山口投手から事情聴取し、8月28日には巨人に対し「処分が重過ぎるとして抗議し、処分の再検討」を求めた。

同時に日本野球機構(NPB)の熊崎勝彦コミッショナーに対して適切な調査や裁定を要求し、9月4日のプロ野球実行委員会に報告されることになった。

▽契約上の危機意識

選手会が巨人への抗議書提出の際に報道陣への説明文書で、今回の処分に関して「全プロ野球選手の契約条件に影響を及ぼす可能性のある極めて重大な問題」とした。

選手会は山口投手が刑事処分的に逮捕された訳でなく、示談も成立している今回の件は、過去のプロ野球界の前例や社会における懲戒処分などに照らしても総額1億円を超す金銭的ペナルティーは明らかに重すぎるとしている。

さらに問題は今季から3年契約だった山口に対して、複数年契約の見直しを迫り、同意しなければ契約解除(解雇)するとの条件を提示し続けて年俸等の見直しに結び付けようとしたと指摘。独占禁止法上からも「優越的地位の乱用である」とした。選手の権利を守る選手会の危機意識は当然だろう。

▽解雇に当たる重大事案か

巨人は選手会に「山口投手に対する処分は妥当なもの」と反論しているが、18日の処分発表の席で石井一夫球団社長は「契約解除も考えた。だが、本人の深い反省もあり、もう一度チャンスを与えたい」と述べている。

2年前の野球賭博事件の記憶がまだ新しい時に起こった選手の不祥事。球団の管理能力が問われる事態に怒り心頭なのは分かるが、今回の一件が解雇されるようなことだったか、まず疑問に思った。

▽芳しくない評判

山口投手は2006年に大分・柳ケ浦高から高校生ドラフト1巡目で横浜(現DeNA)に入団。4年目から抑え役として頭角を現し2度の30セーブ以上を記録した。

14年から先発に転向して昨年は11勝と初の二桁勝利をマークして、球団初のクライマックス・シリーズ(CS)出場に貢献した。

ただ、大の酒好きは知られていて球団内の評判は芳しいものではなかった。

今季からFA移籍した巨人で右肩痛から出遅れ初登板は6月。4試合で1勝1敗と期待を大きく裏切る成績もあって批判の矛先はすべて山口投手に向かった。

▽初のFA3選手獲得

巨人は昨年オフにこの山口投手をはじめソフトバンクの森福充彦投手、日本ハムの陽岱鋼外野手と初めて3選手をFAで獲得した。

しかし、3人がそろって出遅れ、チームは6月に球団初の13連敗を喫し、その責任を取る形でゼネラルマネジャー(GM)が、元巨人投手の鹿取義隆氏に交代した。チームを取り仕切るGMの、シーズン途中での異例の交代人事だった。

なるほど、山口投手の場合を見れば、例えば酒に難ありと思えば、その対策は立てられたはず。野球賭博問題にしてもそうだが、事件後に「巨人の選手は紳士たるべし」と言っても遅い。

球界内では「巨人フロントの力は落ちている」と言われ、鹿取新GMも「GMらしい権限が与えられていないのではないか」という声も出始めているようだ。

▽1993年に導入

1993年オフに導入されたFA制度。この選手契約に大きな風穴を開ける画期的な制度改革は、もちろん大リーグを倣ってのものだが、日本では巨人が積極的に進めた。この93年にはドラフトでの“逆指名"も実現していた。

長嶋茂雄氏が2度目の監督になったのが93年で、FAと逆指名導入はこれ以上ない追い風になった。

巨人がこれまでFAで獲得したのは20人以上。落合博満氏をはじめ、各球団の主力級を次々と獲得してきた。

“巨人が強ければ球界が繁栄する"という信念に基づいていたのはその通りだろう。球界全体のことを考えていたとは思えず、この図式は今も変わっていない。

▽裏目に出た補強

なるほど、相変わらず巨人の人気はすごい。その上、契約条件などが飛び抜けている。複数の球団から誘われた場合、年俸で1億円の差があれば、選手はやはり巨人を選ぶ。

長嶋監督のことを書いたが、2年目を迎えた高橋由伸監督への支援だった3人のFA選手獲得がとんだ裏目に出た格好だ。

巨人は大昔からトレードなどで戦力を補強してきた体質は変わらないだろうが、リーグ2連覇を目の前にしている広島は常に「選手育成」に力を入れてきた。いい見本が目の前にある。

▽社会的地位

一方で選手はもっと社会に目を向けた方がいい。例えば、契約更改時に代理人が認められているが、この面はあまり発展していない。

球団が嫌がるからだと思うが、自分たちの権利を自らが守る意識があまりにも薄い。これではプロ野球選手の社会的地位は高くならない。

選手会が現在求めているのが「契約更改時などの契約内容の事前通知」がある。

背景には選手の立場の弱さがある。日本になじまないなどと言わず、代理人制度の活用などはその突破口になると思う。選手自身の自己管理にもつながるものだ。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆