サッカー王国ブラジルで代表の「10番」を背負うスターが、史上最高額の移籍金で新天地へと移った。欧米メディアの報道によれば、その額は2億2200万ユーロ(約291億円)という途方もない数字だ。

25歳のネイマールがバルセロナ(スペイン)に別れを告げ、パリ・サンジェルマン(フランス)のユニホームに袖を通した。

二つの驚きがある。

一つ目はだれもが驚く移籍金の額だ。昨年夏にフランス代表ポグバがユベントス(イタリア)からマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)へ移った際の8900万ポンドが、これまでの最高だった。

フランス・フットボール誌選定の世界年間最優秀選手「バロンドール」に4度輝いているポルトガル代表FWロナルドが、2009年夏にマンチェスターUからレアル・マドリード(スペイン)に移籍した際は8000万ポンドだったとされる。

ネイマールとバルセロナの契約の中に、破棄条項として2億2200万ユーロという設定があったため、移籍金は過去の記録を一気に更新する形になった。

ネイマールがそれだけの価値にふさわしかったと証明するには、パリSGで欧州チャンピオンズリーグを制覇できるかどうかにかかっていると言ってもいいだろう。

年俸は3000万ユーロ(約39億円=税抜き)という。お金(マネー)とネイマールの名前を引っかけた「Moneymar」という造語まで生まれ、8月4日の記者会見でも移籍の理由がカネといわれることに関する質問が飛んだ。

ネイマールは「お金はこれまで一度も、僕の第一の関心ごとではなかった。人々がそんなふうに考えるのは残念だけど、パリSGは僕の能力を見て、そこに価値を見出してくれた。もちろん(欧州チャンピオンズリーグで)優勝したいという野望を持っている」と答えた。

もう一つは、バルセロナを去るという決断そのものだ。むしろ、金額の多寡よりもこちらの方に驚きを覚えたといってもいい。

バルセロナはRマドリードと並んで世界屈指のビッグクラブ。そのチームで主力を張っている選手が自ら退団を選んだのだ。

かつてバルセロナでもプレーした元イングランド代表のリネカー氏は「バルセロナからの移籍は、後退でしかない」とツイッターでつぶやき、スポーツ専門局のESPNも「スーパースターがほかのクラブへ行きたがったという今回のメッセージは、のみ込むのが難しい」と評した。

2001年以降に限れば、バルセロナは欧州CLで最多の4度の優勝を誇り、実力と人気の両面で今のサッカー界のトップを走る。

その栄光の場所を投げうってまでと考えたとき、やはりメッシ(アルゼンチン)のことを思わずにはいられない。

バルセロナの中心選手は、あくまで生え抜きのメッシ。バルセロナの同僚である限りは、彼を超えられない。ネイマール自身もたぐいまれな才能を持つからこそ、メッシとともにプレーすることは、喜びであると同時に葛藤も抱えていたのではないか。

ネイマールは「バルセロナを去るというのは、人生で最も難しい決断だった」と明かしつつ「新しい挑戦を探していた」とすがすがしい表情で言った。

二人は、ネイマールがサントス(ブラジル)に在籍していた2011年のクラブワールドカップ(W杯)決勝で対戦している。欧州CLに舞台を移し、再び両雄がピッチで相まみえる瞬間が訪れることを楽しみに待ちたい。

土屋 健太郎(つちや・けんたろう)1979年生まれ。千葉県出身。2002年に共同通信社入社。福岡でプロ野球のソフトバンクなどを担当。07年1月から東京でサッカー、大相撲、バレー、バスケットボールを担当。15年からベルリン支局でサッカーを中心に取材。