スタジアムに着いたときには、衣服はびしょぬれ。雨の中でサッカーをやっても、ここまで靴の中が水浸しになった記憶はない。

アウェーチームである磐田の名波浩監督が、試合後に「この状況で開催していただいた等々力競技場の皆さまには非常に感謝しています」と異例の発言をしたJ1第19節。7月29日の川崎対磐田の試合は、数時間前から試合中止もおかしくないような豪雨に見舞われた。

仕事でなければ間違いなく家に引き返しただろう。と同時に思ったのは、このような悪条件でもスタジアムに足を運んでくれる観衆に、各クラブは見合った満足感を与えているのだろうかということだった。もし上から目線で「見せてやる」的な感覚を持ち、試合自体もつまらなかったら、スタジアムにはコアなサポーター以外は定着しないだろう。

幸いにも等々力での試合は見どころの多いものだった。2―5で敗れた川崎のサポーターは、結果には満足できないだろう。しかし、7度のゴールシーン。さらにハーフタイムには地元・川崎に住んでいる西城秀樹さんが登場する恒例の「YMCAショー」もあり、2万4000人弱の観客はずぶぬれの元を取ったのではないだろうか。

少し弱まったとはいえ、試合中も強い雨脚だった。そのような試合で分かれるのが、対応力の高い選手とそうでない選手の違いだ。雨でぬれた芝生は、グラウンダーのボールが滑るように伸びる。逆に水たまりでボールが止まる場合もある。それを見分けられる選手は、当然だがアドバンテージを握れる。

この試合で2得点。前半8分、後半10分にボランチの位置から最前線へ飛び出して、GKとの1対1の場面を確実に決めた川辺駿。磐田で台頭する若手MFのシュートは、雨を意識したプレーだった。先制点の場面、中村俊輔の縦パスをポストに入った川又堅碁がヒールで流す。そのボールを対角線上のゴール左隅に突き刺した右足ダイレクトは「スリッピーなんで下を狙った」芝生上で伸びるシュート。GKチョン・ソンリョンの反応は明らかに遅れた。

そして、再び川又のスルーパスから右サイドを抜け出た自身の2点目。これもグラウンダーのシュートだった。本人の狙いはニアポスト際だったみたいだが、結果的にGKの股間を抜けた。これが得点となったのも、ぬれた芝生で球足が速くなったからだろう。

天候を味方につけようとしたのは川辺だけではない。当然のことだがベテランの中村俊輔も狙っていた。それは後半21分のFKの場面だった。

位置は右サイド、ゴールまでの距離は約35メートル。セットプレーで攻めに出る磐田の選手は、中村俊輔とは対角線となる川崎ゴール左側へと集まる。ゆっくりした助走から次の瞬間、レフティの中村俊輔はガラ空きとなったニアサイドを、グラウンダーのキックで狙ったのだ。

誰もがファーサイドにFKを合わせ、直接シュートを狙わないだろうという距離。しかし、中村俊輔の頭には「芝生を滑らせれば」という計算があったのだ。惜しくもシュートはGKチョン・ソンリョンに防がれた。それでも、その意図がわかったとき、とても得した気分にさせられた。サッカーは偶然のゴールよりも、得点にならなくても意図を持ったプレーに価値がある。

優れたプレースキッカーの存在は、この日のような悪条件のなかではより際立つ。両チームの頭脳ともいえる2人の中村。川崎の中村憲剛と磐田の中村俊輔は、それぞれCKから1ゴールずつを導き出した。しかもゴールにこそならなかったが、2人がセットプレーを蹴るとほとんどがチャンスに結びつくのだ。近頃は日本代表でも見当たらないFKのスペシャリスト。この36歳と39歳の技を受け継ぐキッカーが出てきていないということは、日本サッカーの大きな問題なのではないだろうか。

加えて気になったのが判定の問題だ。この試合で、後半28分に磐田のムサエフが2枚目の警告で退場処分になったプレー。あれは本当にイエローカードが出されるものなのだろうか。右サイドのアダイウトンが出したグラウンダーのクロス。これに対し得点を狙ったムサエフと、GKチョン・ソンリョンが交錯した。シュートとセーブのポイントが一致したのだ。ムサエフのファウルであることが間違いない。ただ、あれでイエローを出されたら、攻撃側はゴール前に飛び込めなくなる。

これは国際大会でもよくある傾向だが、大量リードしているチーム側の選手が簡単にカードを出されるのをよく見かける。そして今回、もし川崎と磐田の試合が接戦だったらムサエフは退場になったのだろうか。疑問だ。判定基準はどんな展開でも一定でなければいけない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。