大相撲名古屋場所の4日目、いよいよ幕内に突入した愛知県体育館はいつもと違う雰囲に包まれた。

向正面の升席で将棋界最多の29連勝を達成した14歳藤井聡太四段が、観戦のため訪れたのだ。

新聞の一面を飾り、テレビでも顔を見ない日はないほど。愛知県瀬戸市出身の今をときめく“時の人"の登場に館内は騒然となった。

多くの人が写真を撮るためにスマートフォンを片手に土俵に背を向けていた。それも無理はないと思う。

ただ一時的に相撲そっちのけの状態になり、命を削るような真剣勝負に臨む力士にとっては集中力を保つのが難しかったはずだ。

力士には気の毒な状況が幕内前半戦が終わるころまで続いた。こういった珍しい状況で目を引いたのは、力士以外の国技を支える面々だ。ある行司はざわつきが収まらない館内で普段より大きな声を張ってさばきを務めたという。

「力士の方なら誰もが憧れる幕内の関取が勝負をするんです。最高の見せ場です。どうしてもしっかり見てほしかった」と胸中を明かした。国技を演出するプロとしての矜持がその言葉から強く感じられた。

大相撲人気は沸騰し、今や入場券を手に入れるのも困難になっている。そんな状況だからこそ優先されるのは、いかにいい勝負が繰り広げられるか。そのための努力はほかにもある。

稀勢の里の横綱昇進などで注目が高まるにつれて、懸賞の本数も増加している。増えれば増えるほどいいようなものだが、実は一つの取組に懸けられる上限は60本となっている。

進行と勝負の妨げにならないように上限が設けられているのだ。ここにも伝統ある国技ならではの演出がある。

呼出の方たちが懸賞幕を持って1周するため、土俵に上がれるのは20人まで、3周が時間の限度だという。それ以上だと力士のリズムに影響を及ぼす恐れもある。

そのあたりを関係者は「相撲そのものに影響があっては元も子もない」と説明する。

日本相撲協会の担当者によれば、この上限を超える申し込みが5月の夏場所であったが調整をして減らすことになった。

八角理事長(元横綱北勝海)は休場者が出ると「番数が減ってしまい申し訳ない」とファンへおわびの気持ちを口にする。

何よりも「いい相撲をお見せすること」と土俵の充実を柱に掲げる。そのために周囲は細やかな配慮で対応している。

それを生かすも殺すも力士の精進次第。大相撲の魅力を伝えるため、角界挙げての尽力が続く。

七野 嘉昭(しちの・よしあき)1984年、岐阜県出身。東京外大でカンボジア語を専攻し、2008年共同通信社入社。09年末、福岡支社に異動し、プロ野球ソフトバンク、サッカー、ゴルフなどを担当。13年末から東京本社で相撲、ボクシングなどを担当。