サッカー場の内側をのぞいてみると、ミックスゾーンというエリアがある。試合を終えた選手と報道陣が接する取材の場で、ここに現れる選手の特徴はさまざまだ。どうすればこんな短時間でシャワーを浴びられるのかと驚かせてくれる速攻型の選手。対照的に、十分に時間をかけて登場する遅攻型の選手もいる。

横浜F・マリノスの「ボンバー」こと中沢佑二は後者である。39歳の大ベテランがミックスゾーンに姿を見せるまでには、ゆうに1時間。ロッカールームで入念な体のメンテナンスを行うのがルーティンとなっているからだ。締め切りに追われる記者の中には、彼のコメントを待ち切れない者も多い。その分、必然的にメディアで流れる中沢の言葉というのは少なくなる。

6月25日のJ1第16節の神戸戦。その中沢がフィールドプレーヤーとして浦和の阿部勇樹に並ぶ歴代1位、139試合の連続フルタイム出場を成し遂げた。アラフォーになってもハイレベルなプレーを維持し、若手を寄せ付けない。細心の注意もあり、けがに強い。センターバックというポジションで最も危険性の高い警告や退場に関しても、守備技術が高いから簡単にはカードを受けない。すべてにおいて尊敬に値する域に達している。

神戸戦でもゴール前のピンチの芽をことごとく摘み取った。神戸の攻撃、右サイドにいたウエスクレイの左足アウトサイドのクロスは意表を突くものだった。それを相手FWより先に察知し、ダイビングヘッドではね返す。積み上げた経験と読み。ときには不格好な体勢でのクリアもあるが、それはどのようなボールにも反応できるということ。中沢の守備力を目の当たりにすると、現在の日本代表に「安定装置」として組み込んでも何の遜色もないと思わせるクオリティーだ。

中沢を中心とした堅固な守備。それを基盤に4連勝。神戸戦の完封でリーグ戦3試合連続無失点となったが、すごいのは3試合すべてで中沢とセンターバックを組むパートナーが代わっていること。第14節の川崎戦までコンビを組んだデゲネクが、オーストラリア代表として大会などに出るためにチームを離脱。第15節のFC東京戦では栗原勇蔵と久々にコンビを組んだ。栗原が負傷すると、神戸戦ではリーグ戦今季初出場の朴正洙(パク・ジョンス)と組んで完封。もちろん相棒の質の高さはある。しかし、それ以上にタイプの違う3人を巧みにリードする中沢の柔軟性と存在感は、かえのきかないものとなっている。

守備が安定すれば、チームはポジティブに成長を遂げていくもの。まさに現在のマリノスだ。前節で右サイドバックの松原健が出場停止、左の金井貢史を右に、山中亮輔を左に配した。この布陣を第16節でも採用すると、リーグ戦今季先発2試合目の山中が先制点をアシストするのだから、流れは良い方に向いている。得点の場面は、見事なコンビネーションによる展開だった。

後半立ち上がり直後の2分。「ジョンス(朴)はボールを持てるから安心して高い位置を取れる」という山中のポジションが鍵となった。左サイドのライン際。マルティノスから絶妙のタイミングで縦パスがスペースに出る。そのボールをゴールラインまで持ち込んだ山中が「マチさん(中町公祐)かどうかは分からなかったけど、マイナスの位置に誰かいるのがわかったんで、そこに感覚で出した」と丁寧なラストパス。フリーの中町は左足を合わせるだけだった。

シーズン当初、攻撃のカードは限られていた。斎藤学のドリブル突破に頼るしかなかった。それが現在では激しいポジション争いから生まれてきたサイド攻撃が加わった。さらにボランチ、扇原貴宏の相手守備ラインの背後を狙ったロングパスという新たな武器も手にした。

チームの成長は選手たちも感じている。先制点の中町は「手応えのある連勝」と神戸戦を振り返った。「やっている選手は『なんでこんな勝っているんだろう』じゃないんだよね」という。勝つ根拠があれば、それは間違いなく自信としてチームに蓄積される。これが現在のマリノスだ。

岩崎 龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2014年ブラジル大会で6大会連続。