国際試合があった関係で、中断が2週間あったJ1。まれに見る混戦となっている中で、低迷しているチームにとっては十分にリセットの時間があったのではないだろうか。ワールドカップ(W杯)アジア予選を戦う日本代表が海外組を中心に編成されていることを考えると、Jリーグのチームはさほどのマイナス影響を受けない。その例外は、5人の選手を代表チームに招集されたガンバ大阪だけだろう。開幕直後から、多くの故障者を抱えていた川崎。対する広島は、過去5年で3度のリーグ制覇をしたことがうそのような状態が続く。6月17日のJ1第15節は、この両チームが中断を挟んでどのような変化を遂げたのだろうと注目していた。

先発メンバーを見ると、川崎は久しぶりにベストメンバーがそろった。故障が癒えた大島僚太、エドゥアルド、そして開幕前に負傷したエウシーニョが今季初のピッチに立った。守備から攻撃までポジションを自在に変えてこなすため、相手にとっては最も捕まえにくい存在だ。一方の広島は、直前に塩谷司のアラブ首長国連邦(UAE)のアルアイン移籍が発表されたばかり。主力が急に抜けることになったが、このポジションを野上結貴が務めることになった。

前半は広島のペースだった。前線からのプレスがきき、川崎にボールを持たせるもののピンチらしいピンチはなし。メンバーが戻って期待させた川崎を開始から45分間はシュートをゼロに抑えた。シュートが一本もない。それはかなりつまらない試合なのだが、広島も数少ない決定機となった前半42分の柴崎晃誠のヘディングシュートを右に外す。試合全体として必ずしも見せ場の多い内容ではなかった。それでも勝負が決まるポイントというのは、ときに美しく印象に刻まれる。それがこの試合で唯一生まれたゴールの瞬間だった。

後半開始直後から、川崎は相手のペナルティーエリア内に侵入する回数を増やした。後半4分には右サイドの阿部浩之のクロスを小林悠がフリーでシュート。直後にもシュートには至らなかったが、エリア内で複数の選手が絡むプレーで広島守備陣を混乱に陥れた。その流れから、ペナルティーエリア外にいる川崎の選手へのプレッシャーが薄れる時間帯だった。

後半11分、広島のゴール前。エドゥアルドネットからの縦パスを、ポストに入ったエウシーニョがつぶれながらも左サイドにはたく。受けたのが前半の1トップから左にポジションを変えていた阿部だった。ゴール正面やや左寄り、距離は約20メートル。左足で放ったシュートは、低い弾道でGK林卓人のニアサイドを抜いた。川崎で今季最多となる5ゴール目を決めた阿部は「あまり覚えていないんですけど」と言いながらも「良い距離というか、自分の得意なシュートエリアだったので自信を持って打った」と語っていた。そして、この距離からのミドルシュートを、阿部のようにゴール枠に持っていけるJリーグの選手は必ずしも多くはないのが事実だ。

ペナルティーエリア外からのシュートで、このような光景を見たことはないだろうか。ゴール枠の上に大きく浮き上がる弾道だ。体が直立したままでのインステップキックは、ボールに対する足の甲のインパクトの角度をよほど意識しない限り、ゴールまでの距離が長くなれば浮き上がる可能性が高い。阿部は同じインステップで蹴りながら、決してボールが浮き上がらないキックをしているのだ。

右利きでありながら左足での見事なシュート。「なんでかな。小さい頃からシュートが好きだっただけかなと思います」と笑っていたが、好きだからこそシュートを枠に持っていく技術を身に付けたのだろう。それが教えられたものなのか、経験から本能的に得たものなのかは分からないが…。

阿部のエリア外からの地をはうようなシュート。インステップキックの秘密は、体を横に倒して蹴っているからだ。この蹴り方をすればボールは決して上に浮くことはない。どちらが勝ってもおかしくない試合。そのような中で阿部が見せた高度なキック技術との遭遇。このような選手は、もう少し評価されてもいい。

岩崎 龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2014年ブラジル大会で6大会連続。