今、卓球に確かな変化が訪れている。その思いを強くする場面に遭遇した。

6月17日、東京体育館で行われていたワールドツアーの「荻村杯ジャパン・オープン」第4日のこと。男子ダブルスの表彰式が終わり、パソコンに向かっていた私を含めた記者の耳に、「キャーッ」と大きな歓声が飛び込んできた。

原稿作業の手を止めて、視線を上げたその先には意外なシーンが。丹羽孝希(スヴェンソン)が、スタンドに残っていた女性ファンに向けて準優勝の記念の花束を投げ込んでいたのだ。こんな光景は初めて見た。

記者席を飛び出して、会場外のJR千駄ケ谷駅前での花束を大事そうに触り合っていた帰り際のファンの一団に直撃してみた。

聞けばこの日集まったのは約20人、年齢層は20代から50代と幅広い。SNSなどでつながり、潜在的には100人ほどの広がりがあるという。

「かっこいい」「かわいい」「プレーも発言も潔い」と魅力を語ってくれた。確かに試合中も「丹羽くーん!」「コーキー!」と黄色い声援が送られていた。なんだかアイドルの追っかけみたいだが、ファン層が広がることはいいことだと素直に思う。

2015年に取材したラグビーのワールドカップ後の日本代表の盛り上がりにも似ていると感じた。

ドイツのデュッセルドルフで開かれた世界選手権個人戦の日本勢の活躍を受け、最近は卓球の原稿を書き続けている。

世界選手権は、15年の個人戦蘇州大会で、当時14歳の伊藤美誠(スターツ)が初出場で8強入りして脚光を浴びた。16年の団体戦クアラルンプール大会は男女の銀メダルで盛り上がった。

ことしの個人戦は、42年ぶりのメダル5個と歴史的な大会になった。

担当になって2年半。世界大会の取材を終えて帰国するたびに、注目の高まりを実感する。もちろん昨年はリオ五輪の大活躍もあった。

女子は高校2年の平野美宇、男子は中学2年の張本智和(ともにエリートアカデミー)と新たなスターも誕生している。

丹羽もリオ五輪と世界選手権で続けてシングルスのベスト8に入り、6月の世界ランキングは9位まで上昇した。話題性だけでなく、日本全体のレベルも着実に上がった。取り上げられる選手の数が増えてきたことがその証しだろう。

最後に、水谷隼(木下グループ)に触れさせてもらいたい。ジャパン・オープン最終日の18日はシングルスの準決勝、決勝だけが行われ、4強に入った彼がいなければ日本選手が不在の一日となるところだった。

準決勝は世界2位の樊振東(中国)から1ゲームを奪い、大きく見せ場をつくって抵抗。エース健在をアピールした。

世界選手権では、2回戦で張本に敗れた。試合直後は「彼のためにも、僕がもっと成長しないと」と気丈に振る舞っていたが、内心は穏やかでなかっただろう。

屈辱の敗戦から2週間がたち「張本に負けて気持ちも落ち込んだ。不完全燃焼で、モヤモヤがあった」と胸の内を語ってくれた。

ジャパン・オープン開幕前の6月9日が誕生日だった。快勝した1回戦後の言葉が胸に響く。「1回でも中途半端な気持ちで試合をしてしまうと、1回が2回、2回が3回になる。ふがいないプレーは今後絶対にできない」。28歳の再出発宣言と受け取りたい。

小海 雅史(こかい・まさし)1982年生まれ。東京都出身。2005年共同通信社入社。06年から福岡支社でプロ野球ソフトバンク、11年から東京でヤクルト、巨人を担当。15年からは卓球やラグビーなどを取材し、15年ラグビーW杯、16年リオ五輪をカバー