先日、野人の異名をとった岡野雅行さんのトークショーに行ってきた。現在、J3のガイナーレ鳥取の代表取締役ゼネラルマネジャーを務めている岡野さんは、現役時代から話のおもしろい人物ではあったが、話術にさらに磨きがかかった感じだ。語りのうまさは自らチームのスポンサー獲得に駆け回って、多くの人々と接触する実戦で鍛えられたらしい。相手を自分の間合いに引き込む語りの軽妙さ。話の最後には必ずオチがあり、まるで落語のようだ。

その岡野さんがイランを相手に延長でゴールを決めて、日本がワールドカップ(W杯)初出場をつかみ取ってから今年で20年になる。マレーシアの南端の都市、ジョホールバルのラーキン・スタジアム。1997年11月16日のスタンドの上空には、美しい月が浮んでいたのを覚えている。

W杯が目標にさえなり得なかった頃を知る者としては、良い時代の流れを過ごさせてもらったと思う。欲しいものが簡単に手に入ると、ありがた味というのが薄れる。その意味で1993年のドーハの「失望」と1997年のジョホールバルの「焦らし」は、日本人にとってのW杯の価値を高める大きな役割を果たしたともいえる。

過去20年で5回連続の出場。W杯はいまや若い年代の人たちからすれば、4年に一度巡ってくる日常になった。それはアジア諸国に先がけて計画的強化に取り組んだ日本協会の功績だろう。ただ、ドーハの「失望」当時の2枠から出場枠が増え、ここのところアジア予選をあまりにも簡単に勝ち抜ける印象があるものだから、日本代表に寄せられる熱量が少し落ちてきている気がする。

現状では日本がW杯の本大会で勝ち上がる可能性は、相当の条件がそろわない限り難しい気がする。そうなれば日本代表の「勝負」の場面をどこに求めるのか。今回のアジア最終予選は、ジョホールバルほどではないにしろ、久しぶりに緊張感があるものになりそうだ。B組で首位に立つ日本。6月8日に行われたサウジアラビアとオーストラリアの直接対決は、ホームのオーストラリアが3-2で勝った。この時点では、消化が1試合少ない日本を含めた上位3チームの勝ち点は16で並んでいた。そして、6月13日、日本のイラク戦は引き分けに終わった。日本の最後の2試合はオーストラリア(ホーム)、サウジアラビア(アウェー)との直接対決。連敗すれば、出場決定の2位以内から外れ、3位への転落もあり得る状況だ。

この時期の代表チームの編成は、難しいものがある。シーズンが終了したばかりで疲労が蓄積されている欧州組のコンディションは、確実に落ちているからだ。既にW杯出場の可能性を失っているとはいえ、イラクは簡単に勝ち点3を与えてくれるチームではなかった。昨年10月に埼玉で行われたホームゲームの2-1の勝利も、決勝点は山口蛍のアディショナルタイムの奇跡のようなゴールだったことを思い出す。

日本が世界への扉を開いた1998年フランスW杯。アジア予選で岡野さんに出番はなかなか回ってこなかった。状況を変えるために、ウオーミングアップで岡田武史監督に自分の存在を意識させるように心がけたという。そんな岡野さんが岡田監督の目を避けたことが一度あるという。イランとの第3代表決定戦、あの試合の延長突入前だ。「国を代表してあんなプレッシャーのなかでサッカーなんてできない」と初めて思ったそうだ。W杯とは、本来はそれほどに重みのあるものなのだ。W杯切符の獲得レース。現時点でのアドバンテージは、もちろん日本が握っていると言っていい。その中で久々に緊張感を楽しもう。最後は落語のように笑える結末があれば、なおさらいい。

岩崎 龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2014年ブラジル大会で6大会連続。