その光景は予想外だった。

違法カジノ店で賭博をし、日本バドミントン協会から無期限試合出場停止処分を受けていた桃田賢斗(NTT東日本)が、約1年2か月ぶりに復帰した日本ランキングサーキット大会。男子シングルス決勝で日本代表の上田拓馬(日本ユニシス)をフルゲームで下し優勝を決めると、突っ伏して涙を流した。

1回戦から決勝までの5日間、いや、高校時代から取材してきて、人前で泣いたところを初めて見た。うれし涙も悔し涙もみせず、常に自信満々でバドミントン人生を歩んでいたエリート。反省の日々を経てあふれたのは、周囲への感謝の涙だった。

問題発覚までの桃田は一言でいえば「やんちゃ」で、それはそれで強烈な魅力を放っていた。髪を染め、高価なアクセサリーを何個も身に着けてコートに立つ。どんな相手をも見下ろしていくようなプレースタイルで、若いうちから大物を打ち破っていった。

日本人で初めて世界ジュニア選手権を制し、日本チームが初めて世界一になった2014年の国・地域別対抗戦男子トマス杯は19歳ながら大活躍。世界ランキング最高位は問題発覚直後に記録した2位で、リオデジャネイロ五輪はメダルの有力候補だった。

それをみすみす手放す愚かなことをした。処分は受けてしかるべきだったと思う。その期間に4年に一度の大舞台が含まれていたことは、悔やんでも悔やみきれなかっただろう。

香川の実家に戻っていた謹慎期間中「家族は気を使って問題のことをあまり話題にしないでくれた」そうだ。

出勤停止が明けて会社に戻ると、バドミントン部以外の社員からも激励されるうちに、周囲の温かさが身に染みた。

復帰戦で桃田は、家族や恩師、会社、ファンに向けて「裏切ってしまった」と繰り返した。「試合は対戦相手がいないとできない。審判、運営の方もいて成り立っている。またバドミントンができることがうれしい」。口先だけでなく、心の底からの気持ちがにじんでいた。冒頭のシーンもそうだし、こんな言葉を桃田の口から聞く日がくることも、1年前は想像できなかった。

人は誰もが失敗をする。若いうちならばなおさらだ。反省したうえで再チャレンジするならば、それを温かく見守る寛容さが社会にあっていい。

本人は「今は東京五輪が目標というより、まず、また応援していただけるような選手になることが目標」と話している。かつては胸元にも指にも光っていたアクセサリーは一つもない。そのことに触れられると「特に理由はないけれど、もういらないかなと思って…」と自分でもちょっと不思議そうに言った。

黒い短髪の飾らない青年は今、内面から光を放ち始めた。

森安 楽人(もりやす・らくと)2008年共同通信社入社。本社運動部から大阪社会部、同運動部で勤務。13年末に本社に戻り、バドミントン、ゴルフ、レスリング、テニスなどをカバー。筑波大ではバドミントン部に所属した。大阪府豊中市出身。