プロ野球はセ、パ交流試合が行われる6月戦線に突入する中、日本ハム・近藤健介の「打率4割」に関心が集まっている。

近藤は「そのうちに落ちる」と言われながら、開幕して2カ月たった5月30日現在も打率4割9厘と大台を維持している。

打率4割といえば5打数2安打を打ち続けるのだから、その難しさが分かる。近藤も4割維持は風前のともしびかも知れないが、久々に高打率が話題を呼んでいる。

▽40試合超は少ない

ここ10シーズンでセ、パ首位打者の打率が3割5分を超えたのは2008年の横浜時代の内川聖一(ソフトバンク)の3割7分8厘、10年のヤクルト・青木宣親(現アストロズ)の3割5分8厘、15年のソフトバンク・柳田悠岐の3割6分3厘だが、3選手が4割で騒がれた記憶はない。

近藤は45試合を消化して4割を維持している。40試合を超えての4割キープは近藤が17人目というデータがあるが、最近では13年の中日・ルナの52試合。ルナは故障で戦列離脱を余儀なくされ、規定打席数(チームの試合数に3・1を掛けたもの)にも足りないままその年を終えた。

▽惜しかったクロマティ

一番長く4割を保ったのは1989年の巨人・クロマティで96試合。

実はクロマティはこの時点で規定打席数に達していたから、そのまま出場しなければ「日本初の4割打者」になっていたのだが、優勝争いの中で残る34試合(当時は130試合制)を休むことは許されなかった。クロマティは結局、3割7分8厘で首位打者となった。

▽イチローは74試合まで

日本でのシーズン最高打率は86年の阪神・バースの3割8分9厘で2、3位にオリックス・イチローの3割8分7厘、3割8分5厘、4位に東映(現日本ハム)張本勲の3割8分3厘。4割維持はバースが69試合、イチローは74、69試合だった。

▽大谷の穴を埋める

近藤は横浜高からドラフト4位で入団した6年目の左打者。捕手登録だが、大谷翔平を欠く今季は指名打者か外野手として3番に定着している。

15年には打率3割2分6厘でリーグ3位の好成績を残した実績がある。

▽広角打法

173センチと小柄な体。強い打球を求めて、右脚を大きく上げてタイミングを取るフォームから投手側に体重を移動させながらのミート打法に変えたことで、どんな投球にも対応できる「広角打法」が可能となった。

目下、両リーグ最多の49四球と選球眼も身につけた。近藤は「昨年までは調子を崩したときに練習をやり過ぎた。今年は淡々とやっている」と精神面での変化も口にしている。

▽ウィリアムズが最後の4割打者

メジャーでは、1941年のテッド・ウィリアムズ(レッドソックス)を最後に4割打者が出ていない。

77年のロッド・カルー(3割8分8厘)、80年のジョージ・ブレット(3割9分)、94年のトニー・グウィン(3割9分4厘)らが4割に肉薄した。

2000年には信じられない話だが、トッド・ヘルトンが8月の試合で3安打して、一瞬4割に打率を乗せたが、本人も含め誰も気付かずそのままプレーしたため、その試合で4割を切ってしまったという。規定打席には到達していたそうだ。

▽長期ストを恨む

一番残念がられているのがグウィン。94年は8月に労使協定をめぐって長期ストライキの影響でシーズンが打ち切られ、ワールドシリーズも中止に追い込まれた。

この時点でグウィンは3割9分2厘で、その好調さから「あるいは53年ぶりに誕生するかも」と期待したファンも多かった。

米国の古生物学者で大の野球好きのグールド博士は「フルハウス」(早川書房刊)という著書の中で『4割打者の絶滅』を多角的に分析していて有名だ。

その博士が「グウィンがそのままプレーを続けられたとしたら、歴史的な瞬間を目にしていただろうと私は確信している。労使両陣営は大馬鹿者だ。ただ、いつの日か誰かがウィリアムズの仲間入りを果たすだろう」とも述べている。

▽打者能力の全体的な向上が影響

グールド博士は、投球技術や守備力の向上、データを含めたチームの管理面の向上が4割を阻む要因としているが、むしろ打者の能力が全体的に向上したことで「野球が成熟した結果」という、独特な結論を導いている。だから、あきらめることはないと言っている。

韓国プロ野球では82年に日本でも首位打者になった白仁天が4割1分2厘で唯一の4割を打ち、台湾では昨年、王柏融が116試合で200安打し4割1分4厘をマークした。

ただ、日本の独立リーグなどもそうだが、投手との実力差が極端にあると高打率を生む。そのリーグのレベルを見ないと、真の4割打者とは言えないだろう。

▽イチローは

イチローは4割についてどんな考えを持っているのだろう。

渡米1年目の01年に3割5分で首位打者となり、4年目にはシーズン262安打のメジャー最多安打記録を樹立し、3割7分2厘で2度目の首位打者となった。

03年に出版された「イチローイズム」(石田雄太著、集英社刊)の中で、イチローは「4割というものには可能性のある選手とない選手がいると思う。僕は可能性がある選手の中にいると思う」と語っている。

シーズンを通してスコアボードに打率を出さず、報道もせず、分からない状態でやったらと言い「途中で知ってしまうと精神的なものが影響してくる。体がミスをするんです」と続ける。

そして「日本で初めて210本を打った94年によく聞かれたが、199本で4割ピッタリだったら、次の打席はどうするのかと、いつも決まり切ったことを聞かないでくれ」という談話も紹介。休んで4割を残すことはない、と著者は結論づけている。

今後イチローが夢を実現する可能性は低いが、日本球界で「4割物語」を見ることができるのだろうか。

田坂 貢二(たさか・こうじ)のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆