監督に就任した2012年から昨年までの5シーズンで3度のJ1制覇。森保一監督率いる広島が、これまでにない苦境に立たされている。4月30日に行われた第9節のFC東京戦、互角の試合を演じながらも0-1で落とし、この時点で順位はJ2降格圏の16位。第9節までの成績は1勝2分け6敗で勝ち点5、得点6、失点12。敗れた6試合で奪った得点はわずかに1、0-1の負けが4回という深刻な得点力不足にあえいでいる。

考えてみると広島はこれまで、必ずしも裕福ではない財政状況で好成績を収めてきた。それ自体が普通ではなかったのかもしれない。基本的にこのクラブは、選手のやり繰りがうまいという印象だ。

その一例が助っ人選手の活用法だ。広島は他のJクラブでくすぶっていた外国籍選手をマジックのように変身させてきた。2015年には、前年までJ2でも並の成績しか残していなかったドウグラスを期限付き移籍で獲得。J1の得点ランキング2位(21ゴール)の選手に押し上げた。アラブ首長国連邦(UAE)のアルアインにドウグラスが引き抜かれた2016年。心配していたら、清水から期限付き移籍でピーター・ウタカを補強した。この目利きも大正解。新戦力はゴールを量産し、19得点を挙げて得点王に輝く活躍。その意味で広島は、本来ならば高い移籍金のかかる外国籍選手をより安価なレンタルで加入させ、主力として機能させるのが驚くほどうまいのだ。

しかし、過去に物事がうまくいったからといって、その成功体験が未来を確約することにはならない。得点王のウタカがFC東京に去った今季、ブラジルからフェリペシウバが加わった。新10番は、まだチームに「違い」を生み出せる存在とは言い難い。昨年から在籍するストライカーのアンデルソン・ロペスもそうなのだが、フル出場の試合が少なく、2人とも4月末までは無得点。ゴールを助っ人選手だけに依存するのは問題とする声もあるだろうが、ドウグラスやウカタの貢献度があまりにもすごかったので、今の2人に物足りなさを感じてしまう。しかも、いまや頼れる佐藤寿人もいないのだ。

それにしても4月末までの6敗のうち5試合が無得点というのは重症だ。サッカーはどんなに劣勢の試合でも、一度や二度の決定的チャンスはある。事実、FC東京戦でも前半42分の塩谷司の直接FKの決定機があった。後半11分にもGK林彰洋の見事なセーブに阻まれはしたが、ペナルティーエリアで塩谷の縦パスを受けた工藤壮人が見事なターンから右足でゴールを強襲したシュートは決まっていてもおかしくなかった。

決定的チャンスの数でいえば、FC東京と変わらない。そういう展開での最少得点差での敗戦。スポーツの場面ではよく遭遇する、原因の説明し難い「流れ」の悪さ。広島は、それに「はまっている感じ」がする。この試合唯一の得点の場面は、左CKからFC東京の丸山祐市がJ1出場66試合目にして初ゴールを決めた瞬間。広島の工藤は試合を通し「正直、セットプレーの場面しかやられていない」という感覚を持っている。すなわち、なぜ負けるのか分からないということ。そして、原因のはっきりしない敗戦というのが、実を言うと最もやっかいなもの。それは強力な戦力を持ちながらも、J2に降格していった過去のチームが証明している。

チームを率いて以来、森保監督のこんなに意気消沈した姿の記者会見は初めてだ。希望が持てるのは、それでも監督自身が勝敗の分かれ目が微妙な差ということを認識している点だ。「戦い方は悪くない中で結果が出ない。『あと少し』というところを乗り越える、変えていくのは、この世界では難しいと思うが、その難しい『もう少し』のところを乗り切っていけるようにチーム一丸となって戦っていきたい」

「あと少し」を、これまでやってきたことを信じてぶれずに突き進むのか。それとも進路を変更するのか。広島の場合は、過去に成功を収めたベースがあるだけに、信じて戻れる場所があるのは大きい。いつの間にか普通の姿に戻っているのは案外「あっさりと」ということもあり得る。ただ、それには、森保監督の言う「もう少し」の中にレベルの差こそあれ助っ人選手の活躍が含まれるのは間違いないだろう。

岩崎 龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2014年ブラジル大会で6大会連続。