味方選手を操り守備ラインを組織して、コースを限定する。シュートストップのための、自らの有利な間合いを整える最後のとりでがGK。そのGKにとって、反応が遅れるやっかいなシュートがある。いわゆるタイミングの測れないシュートだ。23歳の久保裕也という選手は、そのキックを身に付けているのではないか。

小さな足の振りでボールをインパクト。2002年ワールドカップ(W杯)の埼玉スタジアムで行われた準決勝を思い出してほしい。ブラジルのロナウドがトルコ戦で見せたトーキックによる決勝点。つま先でボールをつついてはじき出したシュートは「そのタイミングで打つのか」という予測不能のものだった。相手DFの密集するゴール前で得点する。そのためには、足の振り幅の小さなキックが必要となってくる。歴史に名を残す歴代のストライカーは、大抵がこの技術を身に付けている。その代表格が旧西ドイツの「爆撃機」ゲルト・ミュラーだろう。1メートルのスペースがあればシュートを放てる「リトル・ゴールの天才」といわれた。

シュートの威力を決定する要素は、ボールをインパクトする瞬間のスピード。だから理論上は小さな足の振りでも、振りが速ければパワフルなシュートを打てる。ところがプロの世界を見渡しても、このキックを備えている選手は必ずしも多くはない。強いボールを蹴るためには、どうしても大きな振りになりがちだ。コンパクトな振りで強いボールを蹴れる。これは、いわば特殊技能だ。だから密集に強いストライカーは、移籍マーケットでも人気が高いのだろう。

3月28日のタイ戦。久保が後半12分に放った左足シュートは、Jリーグではなかなかお目にかかれない美しい弾道だった。ゴール正面、ほとんどペナルティーエリアのライン上なので、距離は16.5メートル。左足の弾丸シュートは、ゴール右上隅に突き刺さった。正直、久保がこのような質のキックを身に付けている選手とは知らなかった。本人は「意外にフリーだったし、冷静に落ち着いて打てた」と振り返っていたが、あれだけコンパクトな足の振り抜きができれば、モーションの大きい選手より確実にコンマ何秒かの余裕が生まれる。久保が京都サンガ時代に担当していた友人に聞いてみた。当時からヒザ下の振りが速く、小さな振りでもパワフルなシュートを放っていたという答えが返ってきた。いわゆるGKがタイミングを取ることが難しいシュートのうまい選手だ。

久保のキック。その観点でアラブ首長国連邦(UAE)戦も含め、録画を見直してみた。そして気づいたのは、久保が簡単そうにプレーしているキックの質が、じつは技術的には非常に高度だということだ。UAE戦で見せた先制点。右サイドの酒井宏樹からのスルーパスを右足で打ったシュートは、特に難度が高い。後方から来るボールを直接合わせるには、大振りしていては無理なのだ。予備動作の小さなキック。それはシュートの場面だけではない。タイ戦の前半19分に、走り込んだ岡崎慎司にピンポイントで合わせた右クロスもそうだ。絶妙の高さとコースに、巻くように送られたボールの軌跡は芸術性さえ感じさせる。久保はそのキックを両足に備えている。

日本代表では右サイドで起用され4試合目。久保のボールの受け方や、UAE戦の得点した守備ラインの裏への抜け出しを見ていると、典型的なストライカーの印象が強い。それでも慣れないポジションをこなすことで「もっと(プレーの)幅を広げられる」と現状をポジティブにとらえている。W杯出場への最初の正念場となったUAE、タイと戦った3月シリーズ。この2戦で2得点3アシストの大ブレーク。ヤングボーイズ(スイス)からヘント(ベルギー)へ移籍後、7試合で5ゴールという好調さは分かっていても、誰がここまでの活躍を予想しただろうか。「守」の主役がGK川島永嗣なら「攻」の立役者は満場一致で久保だろう。

ハリルホジッチ体制では本田圭佑の定位置だった右サイドのポジション。そこに割り込んだ久保を、気の早いメディアは「新エース」と報じている。本当にそうだろうか。冷静に考えれば、ACミランで出場機会が少なく、試合勘とコンディションを落としている本田よりも、現時点では久保が好調というのが正解だろう。本田もまだ30歳。出場機会を得てコンディションが戻れば、そう簡単にはポジションを明け渡さないはずだ。その意味で日本代表の右サイドの定位置争いは、さらにレベルが上がっていく。それにしても楽しみな若武者が出てきたものだ。

岩崎 龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。