試合内容だけを振り返れば、完勝というイメージしか残っていない。しかし、結果としては勝ち点3を取り損ねている。1-1で引き分けた昨年10月のアウェーのオーストラリア戦などが典型だろう。ワールドカップ(W杯)のアジア予選で最優先されるのは内容よりも結果だ。

5試合を終えた時点で勝ち点1の中に上位4チームがひしめいていたW杯アジア最終予選B組。折り返しの6戦目となるアラブ首長国連邦(UAE)戦は、日本にとって天王山ともいえる重要な試合だった。勝てば出場権を手繰り寄せ、逆に負ければ4位に転落、大きく取り残される可能性があったからだ。

注目の一戦は、日本が2-0の勝利を収め、出場権獲得レースでかなり有利な立場となった。試合自体も、相手にボールを持たれる場面も含めて、日本がゲームをコントロールしている印象だった。しかし、細部を見れば日本にとっての決定的ピンチがあったのも事実だ。最初は前半20分のマブフートにフリーでシュートを許した場面。そして後半立ち上がり3分ほどのハマディ、サンクールに与えたチャンス。これをすべて決められていたら、2-3の敗戦になった可能性もない話ではない。

代表初ゴールを飾った1得点1アシストの久保裕也の活躍。キャプテン長谷部誠の負傷離脱の穴を埋め、持ち味のボール奪取力に加え、2点目を奪った今野泰幸の存在感。中盤にアンカーの山口蛍を置く、4-3-3という新しいシステムをうまく機能させ、それぞれの選手がアウェーの難しい環境のなかでミッションを達成した。その中でも立役者を選ぶとなったら、個人的にはGKの川島永嗣ではないかと思う。

最終予選に入って初の先発起用。西川周作が浦和での不安定なプレーが目立っているとはいえ、所属のメッス(フランス)で今季、公式戦出場がほとんどない川島を起用するのはかなりの英断だっただろう。ハリルホジッチ監督も「確かにリスクはあった」と認めていたが、それが結果的に「パーフェクトなプレーをしてくれた」という言葉で締めくくれたのは、何よりだった。

それにしても、あの場面でゴールを奪われていたら、その後の展開がどうなったか分からない。前半20分、ハマディのスルーパスからマブフートが抜け出し、GK川島と1対1になった場面だ。1-1に追いつかれていたら、UAEはスタンドの観衆の後押しを得て、さらに勢いをもって日本ゴールを攻めただろう。サッカーで最も恐ろしいのは、スタジアムを包むアウェーの雰囲気。対戦相手は想像以上の過剰なプレッシャーを受け、萎縮してしまう。

その決定的なピンチにも、W杯2大会連続でゴールを守る川島の存在感は際立った。マブフードにパスが通るまでの、わずかな時間で「冷静にコースに入れた」とポジションを修正。シュートコースを消して、両脚と両腕を広げて壁を作り、シュートを見事にブロックした。この倒れないゴールキーピングは、Jリーグでも遅ればせながら取り組むチームが多くなったが、欧州ではかなり前からの常識。その意味で川島は、あらためて欧州でプレーするGKなのだと再確認させられた。

実戦から遠ざかる。そのマイナスの影響は、フィールドプレーヤー以上にGKの方が大きいといわれる。それで、所属チームで出場機会の乏しい川島に代わり、このところ日本代表の正GKは西川というのが定着していた。確かに西川は、川島には備わっていない足技、一発のキックでチャンスを作り出すという武器がある。その特性を支持する声も多い。ただ、GKの足技というのは、あくまでもプラスアルファの要素であってメインではないと思う。試合の勝敗に直結するGKの一番の役割は、やはりシュートストップだ。そして日本代表のキーパー練習を見ていて分かるのだが、シュートに対するセービングの届く範囲が一番広いのがほかならぬ川島だということ。特にセカンドボールに対する体の復元力と反応は、今もナンバーワンだ。

W杯予選には必ずポイントとなる試合がある。それが今回のUAE戦だとしたら、勝利を引き寄せた川島のビッグセーブは、かなりポイントが高い。思い返せば2003年、このUAEでU-20W杯が開催された。日本は優勝したブラジルに敗れたが、ベスト8に進出した。ゴールを守ったのが川島で、キャプテンを務めたのは今野。くしくも、今回の試合で大活躍を見せた34歳の両ベテランだった。その意味で彼らにとって中東のこの地は、アウェーというよりも縁起のいい国として記憶されていたのかもしれない。

岩崎 龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。