ここ数年、着実に記録を伸ばしている事柄がある。テレビ中継のアナウンサーが発する「ミドルシュート」の言葉だ。そのエリアがどんどん広がっているのだ。30メートルの遠距離からシュートが放たれても「ミドルシュート」といっている放送を見ていると、わが国には「ロングシュート」というものが存在するのかが疑問になる時がある。

その距離のあるシュートについてだが、ロングレンジからのゴールが決まった瞬間というのは、見ていても実に気持ちがいいものだ。単純ではあるが豪快だからだろうか。長距離からでもターゲットを確実に射抜く精度とパンチ力。それがあれば、よしあしは別としてサッカーというスポーツはもっと単純なものになるだろう。しかし、この単純さを日本人選手はあまり持ち合わせていない。

日常的にJリーグに足を運んでいるが、日本人選手のロングシュートが決まった瞬間を目撃することはあまりない。もちろんロングシュート自体はある。ただ、多くの場合、蹴ったと同時にゴール枠を外れることがジャッジできる。蹴る方も、自信を持って狙いにいったというのは少ないのではないだろうか。

そのような中、J1で久しぶりにきれいな長距離砲を見た。3月18日の第4節、横浜M対新潟の1点目だ。試合は1-1で引き分けたのだが、前半33分に横浜Mのマルティノスが右サイドからカットインして、左足で放ったシュートは「それができたら理想」という感じのゴールだった。

イタリアの名手デルピエロが得意とした得点パターン。左サイドからカットインして、いわゆる「デルピエロ・ゾーン」といわれる左のエリアから右足でカーブをかけてファーポスト際を狙うシュート。それはGKを避けるような弾道を描くため、守備側からすれば「放たれたら最後」という一撃だ。

左利きのマルティノスの先制点は、サイドこそ違え、まったく同じパターンだった。右ライン際から内側のドリブルで持ち込み、左足でボールをインパクト。ゴールラインまでの直線距離20メートル。左対角線上に飛ぶ距離を「ミドル」にするか「ロング」にするかは分かれるところだが、ボールは見事な弧を描いて左ポスト際に突き刺さった。新潟のGK大谷幸輝はこの試合が27歳11カ月でのJ1デビュー。記念すべき日に、このシュートに鉢合わせしたのは不運だった。

長めの距離をスピードあるシュートで狙う。日本人選手はこのような場合、シュートを「フカしてしまう」ことが多いのだが、外国人選手はゴール枠をとらえる率が高い。それは選択するキックの種類の違いだろう。

育成年代が鍵となっている。日本人選手は少年時代、「強いシュートはインステップキックで」と当たり前のように教えられる。しかし、欧州の指導書を調べてみると「シュートはインサイドで」というのが常識となっている。足の甲でボールをとらえるインステップは、浮き上がる弾道になる。そのためにゴールまでの距離が遠くなるほどクロスバーを越えやすい。一方でインサイドは高さを抑え、方向性も安定している。しかもカーブもかけやすい。これで強いボールが蹴れるならば、これ以上のものはないのだ。

マルティノスのシュートは足の内側、インフロントとインサイドの中間ぐらいにボールを当てている。しかも威力のあるスピードボールだ。これができるのは、初動をインステップと同じ足の振りで始め、インパクトの瞬間だけボールをインサイド気味にとらえるからだ。多くの外国人選手は、当たり前のようにこの技術を身に付けている。日本の技術本に載っている、体を開いてボールにパワーの乗りにくいインサイドキックとは根本的に違うのだ。

意識的にシュートを曲げたのか疑問に思い、試合後にマルティノスに尋ねた。答えはこうだった。「ファーポスト際を曲げて狙うことによって、ゴールになる可能性は高い。内側に切れ込んでのシュートは全体練習後にいつも個人で行っている」。練習が結果に結びついたことが何よりもうれしそうだった。

同じようなチャンスの場面は、逆サイドの斎藤学にもあった。前半、カウンターからカットインして右足で放たれたインステップのシュート。しかし、ストレートでゴールに向かうボールはGKにセーブされた。

それを考えれば、相手GKを避けるカーブ軌道のシュートはかなり有効だ。開幕戦を振り返っても、同じ横浜Mのバブンスキーが弧を描くシュートで先制点を奪っている。

一方で日本人選手に目を移すと、同じような技術を身に付けた選手が何人いるのか。少ないというのであれば、日本サッカーは育成段階で、キックに対する認識を改めなければいけないということだろう。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。