今シーズンのオフは、例年以上に活発な選手の入れ替わりがあった。チームというマシンの完成形を求め、新たなパーツを組み込んで競争力を上げる。その様は、より速いレーシングカーを組み立てるのと同じだ。ところが、加えられたパーツがいくら高性能な部品でも、チューニングがうまくいかなければ速く走れない。微妙なバランス調整の難しさという面での共通点もある。

GK林彰洋(J1鳥栖)、DF太田宏介(フィテッセ=オランダ=)、MF高萩洋次郎(FCソウル=韓国=)、FW永井謙佑(J2名古屋)と大久保嘉人(J1川崎)。日本代表クラス5人を加えた今季の東京は、リーグでも注目の存在といえるだろう。

J1開幕戦では昨シーズンの覇者、鹿島を1―0で撃破。そして、ホームに戻った4日の大宮戦も2―0で制し、開幕2連勝を飾った。結果だけを見ていると、さぞかし新戦力が活躍しているのだろうと思うのだが、実際に大宮との一戦を見た限りでは、FC東京はまだ発展途上というのが正直な感想だ。

もちろん、すでにチームになじんでいる選手はいる。2年ぶりの復帰となる太田には何の問題もないからだ。さらに守備ラインとの約束事でプレーが決まる、GK林も新加入という違和感はない。

この2人ほどに浸透力はないし、まだ本領を発揮しているとも思えない。しかし、チーム内で急速に存在感を示しているのが高萩だ。2度のJ1制覇を果たしたサンフレッチェ広島では、2列目に位置し佐藤寿人などにラストパスを通す感覚派のパサーだった。ところがオーストラリアを経てFCソウルに移籍すると、ポジションを1列下げたボランチに移した。KリーグはJリーグ以上にフィジカルコンタクトが激しい。その激しさのなかでもまれることによって、体を張って戦い、ボールを奪うことに著しい進歩を見せた。その意味で現在の高萩は、われわれの印象に残っている高萩とはまったくの別物だ。

かつては寡黙なイメージがあった。ところが、青赤のユニホームを着た高萩は多弁だ。交通整理をするかのように腕を振り上げて指示を出し、積極的に味方に話しかける。本人は「年を取ったからじゃないですか」と笑うが、間違いなくチーム内で「意思を持つ心臓」となっている。

ボランチになったことで見える景色も変わったという。「僕より前にいる選手が増えたんで」というパサーは、より増えたターゲットを目がけて見る者をうならせるキックを繰り出す。後半20分には、俊足の永井にノールックから「速いからあの辺に出しておけば」という相手の意表を突くパスでビッグチャンスを作り出したのは、その好例だろう。

その高萩とは対照的に、まだ歯車がかみ合っていない感じがするのが大久保と永井のアタック陣だ。組織で事を成す守備的なポジションに比べ、攻撃は個人の裁量の幅がより大きい。それゆえ、前線の選手によるコンビネーションの完成には時間がかかるものだが。

相手の特徴を引き出すプレー。大宮戦の2人には、それがまったく見られなかった。前半12分、大久保から永井に出されたパス。前方のスペースにボールが出されれば、永井のスピードを持てば間違いなく相手守備陣を置き去りにできたはずだ。しかし、足元に出されたことで永井は一度スピードを落としてからの再加速を強いられ、コースが限定された。永井の特徴は世界屈指のスピード。それを操る才覚が大久保にあったら、この試合はさらに楽しいものになっていたはずだ。

その大久保に関しても、発言からはかなりのフラストレーションが感じられる。本人は「割り切るしかない」といいながらも「シュートが打てないんでね」と、現時点での状況に戸惑っているようだ。

一昨年まで3シーズン連続の得点王が、FC東京に移籍しての2試合で放ったシュートはわずかに3本。川崎にいた昨年は33試合で128本、1試合当たり4本弱のシュートを放っていた。ポゼッションからカウンターへ所属チームの戦い方が変わったことで、思った所にボールが出てこないというのが正直なところだ。

それでもベテランは焦ってはいない。「一回合えば、それが自信になってやれるようになれる」。確かにコンビネーションは築き上げるまでが大仕事だ。しかし、一度出来あがれば、あとは熟成が増す方向に自然と進み出す。それを考えれば、2連勝のなかでの大久保の無得点を語るのは、あまり意味を持たないということか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。