一部分だけを切り取られて、画面に映し出される豪放な言動。テレビが伝えるイメージとは裏腹に、サッカーに関するこの選手の感受性はかなり繊細なのではないかと思った。いま売り出し中の新鋭ストライカー、J1鹿島の鈴木優磨のことだ。

Jリーグの2017年シーズン開幕を告げる富士ゼロックス・スーパーカップ。18日に横浜市の日産スタジアムで行われた試合は、3―2で鹿島が浦和を下した。シーズン初めとしては、見応えのある試合だった。

前半に2点を先制した鹿島が見せる、隙のない展開となった試合は後半29分からのわずか2分間で大きく動く。抑え込まれていた浦和が一気に2―2の同点に追いついたのだ。その試合に決着をつけたのが交代出場した鈴木だった。

後半38分、決勝点は「おやっ」という感じで生れた。鹿島の左サイドバック山本脩斗が浦和ゴール前へフィード。だが、鈴木を走らせるパスは、少し長過ぎた。

先にコースへ入ったのは、浦和のDF遠藤航だ。ボールを支配下に収めるもプレスを掛けられたため、GK西川周作へのバックパスで逃れようとした。ところが、そのパスが短くなってしまった。そのボールを、ブロックしていた鈴木にかっさらわれ、予想外のシュートを許したのだ。

浦和にしてみれば、この失点は間違いなく遠藤と西川の連係ミスで献上したゴール。油断しなければ、事なきを得たはずだ。事実この1点について、浦和・ペトロビッチ監督は「残念ながら、ああいった形(ミス)での失点」とし、鹿島・石井正忠監督は「ラッキーな形での得点」と表現した。

確かに鈴木が放ったシュートそのものは、技術的には難しくないだろう。シュートに持ち込むまでの過程で、浦和の判断ミスが加わったことも事実だ。だからといってあの決勝点について、幸運ばかりが強調されるのは違和感がある。得点の価値は、試合後に鈴木が口にした説得力のある一言で重みを増した。

「今日のスタジアムは(試合前に)水をまかなかったんで。ピッチは(ボールが)止まりやすいのは把握できていたんで」

この試合、鈴木は後半20分からの出場だった。ベンチにいるそれまでの間、何をしていたのか。恐らくは、イメージの中で試合を戦っていたのだろう。自分がピッチに入ったら、これをやろうと―。注意深く試合を観察することで気づいたワンチャンスを狙っていたことは容易に想像がつく。

足技の巧みなGK西川に対して、浦和は頻繁にバックパスを行う。しかも、ハーフタイムに散水をしていないため、ボールは芝生を走らない。この二つの条件が重なったところにチャンスが落ちている。そう考えたからこそ、鈴木はボールをコントロールした遠藤の背後からしつようにチェイスしたのだろう。

「諦めないで最後までボールを追え」。指導の現場でよく聞かれるフレーズだ。しかし、ボールを支配下に収めているDFがバックパスをした場合、ほとんどの選手が追うのを諦める。まして、プロのレベルでボールを奪い取れる可能性は限りなく小さい。そんな状況にあっても「狙っていました」と明言できるのは、点取り屋だけが持つ観察眼に基づいた確信があったとしか思えない。

日本のサッカーは、形にこだわり過ぎるきらいがある。きれいにパスをつなぎ、相手の守備網を崩して生まれるゴールが好きだ。それゆえ、ゴール前のこぼれ球を押し込んだシュートを「ごっつあんゴール」と呼び「偶然」のカテゴリーに押し込んで、正当な評価をしようとしない人が多い。しかし、どれだけ手数をかけようと、こぼれ球であろうと、カウントされる得点は1点であることに変わりがない。全てのゴールは同等の価値があるとして受け入れる必要がある。

同じストライカーというポジションでありながら、点を取れる選手と、そうでない選手がいる。両者を比較すると、点を取れる選手が必ずしも技術的に優れているわけではない。例えば、J1で通算94ゴール挙げた武田修宏さんは独特の得点感覚を持っていた。それはポジション取り。DFの体の向きや視線を観察して、ボールの出所を予測する「武田理論」。それは学術的といえるほどだった。

真の点取り屋にとって、優れた観察眼を持つことは必須条件といえる。アスリートであり、相手DFの心を読む心理学者であり、未来を見通す予言者でもなければならない。ストライカーとはそんな特別な存在なのだ。

182センチ、75キロの恵まれた体で、足でも頭でも点が取れる。一見、勢いが勝るように思えた20歳のストライカーは冷静な観察力を備える頭脳派の面も持ち合わせていた。鈴木優磨、じつに楽しみな存在だ。しかも、彼のミックスゾーンでの受け答えはテレビから受ける印象と違って、とても礼儀正しい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。