3月19日に開幕する選抜高校野球大会を前に、21世紀枠で初出場する「部員10人」の岩手・不来方(こずかた)高の取材へ向かった。

盛岡市のベッドタウンである矢巾町にあり、全校生徒も827人と多い。不来方という名前を聞くと、何やら秘境感がただようが、学校のそばには大きなショッピングセンターがあり、閑静な街並みの中に学校はあった。

野球ができるぎりぎりの部員数で、実戦的な練習はどのような形でやるのだろう、といろいろな疑問を抱えながら練習を拝見した。

テスト明けで約10日間練習をしていなかった選手が姿を見せると、ウオーミングアップもジョギングも体操もせず、校舎1階のピロティ部分でいきなり素振りを始めた。

この日は、部員10人が5人2班に分かれ、素振りとウエートトレーニングのみ。「たまたま、そういうメニューの日だったのですか」と小山監督に聞くと「いや、いつもこんな感じです」。「選手は走らないのですか」と聞くと1月に30歳になったばかりの青年監督から「いや、走って何になるのかな、と思って」と真顔で返された。野球部の練習といえばまずランニングが基本と思っていただけに、驚きを隠せなかった。

練習中、選手はにこやかに笑い、談笑しながら1時間ずっと素振りをした。班が交代し、また1時間素振りして、練習は終了。

広いグラウンドを持つが、冬場は雪が積もり、12月上旬から翌3月まで使用できない。守備練習は週に1度、近隣の高校の室内練習場を借りて行うだけで、練習では「打撃9割」を貫いてきた。

外で打つと球拾いが必要なため、部員が少ないと効率が悪いという理由もある。さまざまな点を考慮し、素振りに落ち着いたそうだ。

この日見られなかった守備の技術レベルを聞くと、どうやら散々らしい。ただ素振りをしている選手のバットは鋭い音を立てていた。強豪校のスイングに負けないと思える選手もいた。

エース、4番、主将と一人3役を担う小比類巻選手は「試合の人数は多くも少なくもない。試合中、ハンディはないですよ」と笑った。

岩手大会で準優勝と快進撃を続けた昨秋、10人目の選手としてベンチを温めることが多かった斉藤選手は「部員が多いチームに比べると、一人一人の練習量は取れる」と前向きに捉えた。甲子園では「10人でも、明るく頑張っている姿を見てほしい」と言った。

選抜高校野球大会の選考委員会の席上で、主催新聞社の幹部は出場32校のうち、不来方だけ名前を挙げて期待の声を挙げた。「選手がけがで欠けたらどうするんだ、という声があった。そういったリスクを引き受け、10人でも夢の甲子園に立てるというチャンスを与えたい、という結論になった。全国の少人数のチームにエールを与えたい」

当の選手は、そんな大意を聞いても、「自分たちの野球をやるだけ」と自然体だ。一日2時間の練習。強豪校に比べたら、量や多彩さでは劣る。それでも10人なりの誇りを持って、甲子園に向かう。

昨年よく耳にした「置かれた場所で咲きなさい」「ナンバーワンよりオンリーワン」という言葉が頭をよぎった。不来方高がどんな戦いぶりを見せてくれるか、楽しみだ。

三木 智隆(みき・ともたか)1978年生まれ。奈良県出身。7年間のスポーツ紙勤務を経て2009年に共同通信へ。ゴルフ、陸上などを担当、ロンドン五輪とソチ・パラリンピックを取材した。14年5月に大阪運動部へ移り、高校野球を中心に取材している。