欧州の冬の移籍市場が1月31日に閉じられた。その締め切り間際に、J1鹿島の柴崎岳が移籍したという報道がスペインから伝わってきた。

柴崎はもともと海外志向が強く、特にスペインのサッカーに興味を持っていたらしい。しかし、外国人選手の枠に縛りのないドイツ1部リーグなどと違って、スペインは欧州連合(EU)圏外の国籍の選手保有枠が、ベンチ入り、出場ともに3人と定められている。

日本国籍を持つ選手はEU圏外となるので、獲得するチームとしてはスペイン人選手以上の能力を求めてくる。最初から主力として活躍できる“助っ人"としての戦力でなければ、外国人枠を使う意味がないのだ。

一連の報道を見ていると、柴崎の移籍先はスペイン1部リーグのラスパルマスが有力なのだろうと思っていた。ところがふたを開けてみると、契約書にサインしたのは2部のテネリフェだった。

シーズン途中に行う補強の目的は、チームに足りない部分をカバーすることだ。契約に至らなかったということは、現在のラスパルマスに欠けるものを柴崎というピースでは埋められないと判断されたということだろう。

それを考えれば、昨年末に行われたクラブワールドカップ(W杯)のレアル・マドリード戦で柴崎が挙げた2ゴールは、われわれ日本人が思うほどにスペインでは評価されていなかったのかもしれない。スペインの2部リーグが、どのようなレベルにあるのかはわからない。ただ、必ずしもトップレベルではないだろう。そのリーグで6位(1月31日現在)のテネリフェが、柴崎と交した契約期間は今年6月30日までだ。

このわずか5カ月間という日数が意味するものは、テネリフェが柴崎という選手をまだ見極められてはいないということだろうか。5カ月はお試し期間。そして、使い勝手がよければ契約延長。見方によっては、テネリフェにとって都合のいい契約のように思える。

それでも、考えようによってはプラスの面がある。柴崎自身がプレーのスタイルを見直して、さらなる幅を持った選手に変身する可能性があるということだ。

青森山田高校に在籍していた柴崎をインタビューしたことがあったが、当時から思慮深い青年で一つの質問をじっくり考えてから答えてきた。だからこそ、微妙な間が流れた思い出がある。余談だが、その空気を和やかにしてくれたのが同級生のGK櫛引政敏(J2岡山)だった。取材を通して柴崎に対して持った印象は、頭を絶え間なく働かせる人間だなというものだった。もちろんU―17W杯本大会で日本代表の背番号10を背負った選手なのだから、頭脳派であることは間違いないのだが。

柴崎がテネリフェでどのポジションを与えられるのかはわからない。鹿島のようにボランチなのか、それともさらに攻撃的な2列目なのか。そのいずれであっても、いままで以上に意識しなければならないのはゴールという結果だろう。なぜなら、スペインの人々が柴崎という新しい選手に抱くイメージは、レアル・マドリード戦で見せたようなゴールであることは疑いないからだ。

どんなに素晴らしいラストパスを通しても得点を挙げない柴崎に対し、テネリフェのサポーターたちは不満を抱くだろう。海外のサッカーファンは、日本人が考える以上にストレートだ。ゴールした選手が一番の評価を得る。「あの得点になったシュートの二つ前のパスが」というように、ゴール以上にそのプロセスに価値を見いだすのはアニメにもなった人気漫画「キャプテン翼」をバイブルに育ってきた日本人ぐらいだ。

スペインで思い出したことがある。日本人選手として初めて同国1部でプレーした城彰二さんが、バリャドリードに移籍した1999―2000シーズン。デポルティボ戦に出場した城さんはGKと1対1の場面でシュートを打たず、味方にパスを出した。結果、得点を生んだそのプレーが話題になったのだ。

現地でこの試合を見ていたのが、現在はJリーグ副理事長を務める原博実さんだ。原さんは試合後、デポルティボのコーチにこう言われたという。「すごい」。そして「あそこでシュートを打たないスペイン人は一人もいない」と。スペインは得点者が全てなのだ。

素晴らしいパスを出せる選手は、当然だがキックがうまく視野も広い。その技術を生かせば、ゴールを奪うことも難しくないはずだ。問題は自らが「決める」という強い意欲を持つかどうか。レアル・マドリード戦の2点目は、気持ちが表れたものの典型だろう。それを考えれば、柴崎がJ1で残した172試合17ゴールは、いかにも少ない。

24歳で迎えた新天地でのチャレンジ。試合に出場しさえすれば、そこに「失敗」という文字はないだろう。ネガティブな要素さえも、プラスに変えられる年齢だ。それを思えば、これからの柴崎岳の変化が楽しみだ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。