今年の野球殿堂入りに決まったのは星野仙一、平松政次両氏と現ロッテの伊東勤監督。特別表彰の郷司裕(アマ野球審判、故人)と鈴木美嶺(野球規則委員、故人)両氏を加え、これで野球人の栄誉である野球殿堂入りは197人となった。

星野氏は中日の投手として146勝を挙げ、中日、阪神、楽天の監督として優勝。「カミソリシュート」を武器にした平松氏は201勝で大洋(現DeNA)の投手として初の200勝をマークした。ともに69歳での殿堂入りだった。

▽名捕手に名を連ねる

54歳の伊東監督が1500試合以上出場した捕手として4人目の選出となった。名実ともに名捕手として球史に名を連ねたことになる。

過去3人は野村克也、森祇晶、古田敦也各氏。伊東監督は記者会見で「私なんかが選ばれていいんですか」と言ったが、勝つことを宿命付けられた1980~90年代の西武黄金期の要(かなめ)役として捕手を20年近く務めた功績が評価されたのは当然だろう。

▽覇権の裏に名捕手

捕手は女房役と言われたり、縁の下の力持ちと形容される脇役的な存在だが、「覇権の裏に名捕手あり」といわれるほど重要なポジションだ。

最近のプロ野球ではその存在が再度見直されてきていると思う。救援投手のように勝敗を左右する終盤にベテラン捕手をピンチ守備に起用するケースが目に付くようになった。日本シリーズのような短期戦では特にそうだ。

ソフトバンクから今季楽天に移籍した細川亨や昨季限りで引退した阪神の鶴岡一成氏などがそうだったが、これまでも近鉄の梨田昌孝現楽天監督、ヤクルトの大矢明彦氏、巨人の山倉和博氏、ロッテの里崎智也氏などインサイドワークで秀でた捕手がチームを支えていたものだ。

▽強肩だった田淵

強肩も重要な要素で、メジャーの捕手では欠かすことのできない捕手の条件。捕手で阪神に入団した田淵幸一氏は強肩と強打が売りで“名捕手列伝"の20傑にも顔を出す。

巨人の阿部慎之助もそのタイプだが、リード面のマンネリ化を含め重労働の捕手を長年務めるのは厳しく、ポジション替えを余儀なくされることが多い。

長年にわたって捕手一筋だった野村、森氏同様に伊東監督が高い評価を受けるのは、ある意味当然だろう。

▽日本一8度

伊東監督は現役22シーズンで谷繁元信、野村両氏に次ぐ2327試合に出場しリーグ優勝14度、日本一8度、ベストナイン10度、ゴールデングラブ賞11度とすごい数字を残している。あまり打撃は注目されないが、1738安打、156本塁打を打った。

▽練習生として入団

伊東監督が西武に入団したのは1982年。その前年に熊本工高定時制(4年制)から埼玉・所沢高定時制に転校し、西武の練習生となっていた。

「西武の囲い込み」を批難する向きはあったし今なら大騒ぎになるケースだろう。熊本工3年の時、甲子園に出場したとはいえ“全国区選手"でなかったことで騒ぎが大きくならなかった理由であろうか。

ただ、球団を持って間がない新生西武の期待は桁外れで、練習生の伊東捕手のために2軍でわざわざ年間30試合を組んだという裏話があったほどだ。

ドラフト1位で入団し1年目33試合、2年目56試合に出場。優勝を争いながら当時の広岡達朗監督、森祇晶コーチはまだ10代の秘蔵っ子に出場機会を与えた。3年目に113試合に出場してレギュラーの座をつかんだのである。

▽新人監督で即日本一

現役生活終盤の2001年に当時の西武・堤義明オーナーから「選手兼任監督」を要請されたが、これを固辞。引退後の04年に監督に就任した。

「中途半端にやりたくない」という理由で、意思を通そうとするあたりに「肥後もっこす」らしさを感じる。

西武監督1年目に2位ながらプレーオフ(現クライマックス・シリーズ=CS)に勝ち、落合・中日との日本シリーズを制した。

現役引退後すぐに監督に就任するケースは珍しく、長嶋茂雄氏や高橋由伸巨人監督ら6人ほどで、その中で日本一になったのは伊東監督だけである。「グラウンドでのもう一人の監督」と形容される捕手というポジションがもたらした結果と見ていい。

▽韓国でコーチ

西武の2年目以降は3、2、5位の成績。思うようにフロントの協力が得られず、4年間監督を務め退団。その後はNHKのメジャー解説者など評論家生活に入る。

09年には当時の原辰徳WBC監督の要請を受け、日本代表の総合コーチとして「世界一」に貢献した。11、12年には韓国プロ野球のコーチを経験した。

それがロッテ球団の目に留まり13年からロッテ監督に就任した。「監督はロッテOB以外はだめ」としていた方針を変えさせての入団だった。

広岡、森両氏から薫陶を受けた西武時代。監督となった西武で人間関係の難しさを学び、評論家、日本代表コーチ、そして韓国での生活とさまざまな経験を積んできた。伊東監督をよく知る人たちはそろってその人間的な成長を口にした。

▽ロッテを3度CSへ

伊東監督はロッテでの4年間で3、4、3、3位と実に3度チームをCSに進出させている。戦力的に見てAクラスの実力はないチームを、投手のやりくりと1点をこつこつ積み上げる野球で上位に進出させている。ある意味“ミラクルロッテ"といえる。

オーナーである重光家の内紛も影響しているのは間違いなく、球団経営にまで手が回らない現状があり思い切った補強ができていない。

▽得点力不足

昨季は12球団最低のチーム80本塁打。24本のデスパイネと10本のナバーロが退団した。

ドラフト1位で大学トップクラスの桜美林大・佐々木千隼投手を獲得できたが、今季も投手陣を頼りに足を絡ませた“1点野球"に活路を見いだすしかない。

捕手出身の殿堂入り監督の采配に注目したい。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆