ニュースを見ていると、Jリーガーたちは新シーズンに向けて早くも始動しているようだ。それを考えると、日本のサッカーカレンダーに占めるシーズンオフというのは、想像以上に短い気がする。

11月の初めにリーグ戦が終了。天皇杯を落とし、早目にシーズンを終えたチームは問題ない。だが、元日に行われた天皇杯の決勝を戦ったJ1の鹿島と川崎にとってシーズン終了はわずか2週間ちょっと前。となると、プロの選手にとっては「休む」という行為そのものも、かなり頭を使う、考えられたものでなければならないのだろう。

リーグ戦が本来のあるべき姿の1シーズン制に戻る今季。例年ならば平穏だったシーズンオフに、大きな変化があった。各クラブが例年にない積極的な選手補強を行ったのだ。

背景にあるのは、Jリーグのリーグ戦有料放送権を新たに獲得した「DAZN(ダ・ゾーン)」が支払う、10年間で総額2100億円にもなる巨額のスポンサー料だ。契約締結を受けて、J1の賞金は大幅に引き上げられ、優勝3億円、2位1億2千万円、3位6千万円となった。

しかし、それ以上に各クラブのやる気を刺激しているのは、新設された理念強化配分金だろう。これは、J1の上位4チームに支給されるもので、具体的な金額は1位15億円、2位7億円、3位3億5千万円、4位1億8000万円。中でも優勝チームが得る15億円は、日本サッカー界ではかつて聞いたことのなかった桁の額だ。

今季のJ1を制したクラブは賞金と強化配分金を合わせた18億円を手にすることになる。これほどの金額があれば、1億円プレーヤーを18人も抱えることができる。もちろん、日本人Jリーガーにそんな高給取りは18人もいないのだが、今季のチャンピオンチームになれば資金の使い方によっては「日本代表」的メンバー編成も可能になるのだ。

最初に他を大きく引き離す、アドバンテージを握るための戦力強化。その意識が強かったのだろうが、今オフは各チームの「顔」的な存在だった主力選手が、他クラブに移籍するニュースが多かった。

他チームからスター選手を迎える。それは、ある意味で「もろ刃の剣」的な要素がある。選手個人の能力は疑いようがない。だが、前チームでの活躍にはその選手を中心に組み立てられた戦術が支えているという側面があるからだ。もし、チーム内で新加入選手が機能しなかったら、戦術の見直しが必要になるが、それには時間がかかることもあるのだ。

新シーズンに向けた移籍で注目されたビッグスリーは、大久保嘉人、家長昭博、そして中村俊輔だろう。いずれも十分すぎるほどの経験を誇る元日本代表選手ということで、新天地でも注目を集める存在となるだろう。

まず、川崎からFC東京に加入した大久保。J1通算で歴代最多となる171得点の記録を持つストライカーが、一番大きい賭けをしたのではないだろうか。なぜなら、大久保は3人の中で最もパートナーの出来に影響を受けやすいプレースタイルだからだ。

2013年に神戸から川崎に移籍してJ1史上初となる3年連続の得点王(26点、18点、23点)を獲得。それは大久保の動きだしに芸術的なタイミングでパスを合わせられる、中村憲剛というキックの達人がいたからだ。昨年もタイトルにこそ届かなかったものの15ゴールをマーク。しかし、09年から在籍した神戸での4シーズンで一度も2桁得点を記録していないということを考えると、改めて中村憲剛の存在が際立つ。FC東京には彼のような“縦パス・マスター"はいない。その環境で大久保が、どのように得点記録を伸ばすのかに注目したい。

その大久保が抜けた川崎に新たに加わるのが家長だ。昨年はキャプテンとしてJ1大宮をチーム史上最高の5位に導くなど、絶対的な存在感を示した。大宮ではパスを散らし、ドリブル突破し、アシスト、ゴールとすべての役割を一人で担わなければいけなかった。今季は小林悠という相棒を得て、中村憲剛にゲームを作ってもらえる環境がある。そうなれば、さらにゴール前での決定的仕事に力を尽くせるはずだ。

横浜Mから磐田に移籍した中村俊輔については、説明するまでもないだろう。純粋に見る者を喜ばせるプレーのできる、日本でも最高のエンターテイナーだ。このようなクラブの宝となる「バンディエーラ」(旗=クラブの象徴)を、簡単に移籍に追い込むプロ・クラブとはなんなのだろうか。理解ができない。ただ、磐田のサポーターは間違いなく喜んでいるはずだ。

金銭がすべてではないが、財力があればチームの編成における選択肢の幅が出る。その意味で今シーズンのJ1リーグにおける18億円の椅子取り合戦は、かなり興味深い。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。