以前に「球界消滅」という本を通して、プロ野球がメジャーに吸収され再編の道を歩むというフィクションで、メジャー流出が止まらない球界のピンチを紹介したが、2016年10月に出版された「野球崩壊」(広尾晃著)は野球の裾野を形成する野球少年が年々減少していて、野球の将来は危機に直面しそうだと警告している。

▽プロ、アマ頂点は盛況

16年のプロ野球は昨季より微増の約2500万人(1試合平均約2万9千人)となる観客動員を記録。高校野球の甲子園大会は夏が1日平均7万2000人、春が同6万5000人と多くのファンが詰め掛ける相変わらずの人気ぶり。プロ、アマとも盛況なのだが、将来を担う子どもたちが「野球よりサッカーを選んでいる」現状が顕著になっている。

前々から少年野球の指導者から「野球をやる子どもが減っている」と聞いていたが、あちこちで頻繁に小、中学生の野球大会が開催されていて実感が伴っていなかった。

▽難問中の難問

ひょっとして、こうした現状にプロ、アマ球界を引っ張る人たちも切実な危機感を持っていないか、あるいは持っていても人気回復に必要な「野球界の一本化」に誰も手を付けようとはせず避けているのではないかとさえ思ってしまう。

この一本化は難問中の難問であるのは間違いない。サッカー界のように一本化できれば、裾野開拓や指導者育成などがやりやすいのは分かっていても高校、大学、社会人、プロ野球などが個別に発展を遂げて来た日本球界の歴史が邪魔をする。

さらに朝日と毎日新聞は高校野球、毎日は社会人野球、読売新聞はプロ野球と密接にかかわっていて、いわばアンタッチャブルな状態が問題を複雑かつ「実現不可能」と思わせているのだ。

▽相次いだ問題提起

こうしたことに切り込んだ新聞・通信社の連載が相次いだ。

15年6月に高知新聞が「激減! 県内少年野球チーム」というリポートを連載した。

毎年6月に開催される県小学生野球選手権は50回を超える歴史を持つが、15年の大会での参加が68チーム、1080人。これは5年前より23チーム、500人減。さらに参加チームのうち20チームほどしかゲームにならない低いレベルだという。

こうした減少は高知県に限らず全国的な傾向だと言える。

▽野球は親の人気がない

高知県内の具体的な事例を挙げているが、連載10回の見出しから実態が分かる。

「廃部」「休部状態」次々 1000人割れ目前

「廃部」を選んだ理由 経験者の子が野球離れ

古豪「江陽」の苦戦 母親はサッカー支持

高知県東部 わずか4チーム 速い流れに打つ手なし

サッカー少年 2000人 理念、組織がけた違い

プレーヤーズ・ファースト 野球とまったく違う発想

サッカー したたか 園児にまで食い込む

勉強まで見るサッカー 野球は「人材」生かせず

体質古い野球社会 足並みの乱れ 大丈夫?

奇跡の復活「旭東」 たった1人、今20人

ある少年野球の監督は現象の理由として「野球は難しい」「野球は親の人気がない」「サッカーの魅力は圧倒的」を挙げていた。

▽組織だった動き

なるほど、野球は技術的に難しい上に道具にお金もかかり親の負担も大きい。プロや甲子園出場選手、神宮球場を沸かす大学選手などの「野球エリート」は別とすれば、底辺を構成する野球少年にとってハードルは高いといえる。

サッカー界は裾野を広げる予算を持ち、明確な理念で子どもを勧誘している。私も知らなかったが、全国大会常連の高知大学サッカー部員は子どもの勉強まで見るそうだ。

野球界にもそうした動きが徐々に見られるようになってきたが、まだまだ球団や個人の域を出ていない。

日本のみならず世界的に組織化されたサッカー界とは決定的に違うのである。

▽マフィア指導からの脱却

高知新聞に続いて共同通信が同9月に「野球の裾野」と題して1部「揺らぐ足元」、2部「現状打開への道」の10回の連載を配信した。野球人気の低迷が鮮明になっており、選手の酷使も相変わらずとし、球界一丸の取り組みが必須だと結論付けている。

なかでも衝撃的だったのが「マフィア指導」からの脱却ではなかろうか。

野球に限らずスポーツ指導者の「鍛錬に名を借りた暴力」が後を絶たないが、野球界で暴力行為は減ったものの、指導者の恫喝に近い言動が横行しているのは間違いない。

中学野球のある指導者が米国野球を視察した際に「日本ではマフィアが野球を教えているんだろう」と言われた話を紹介している。

野球界も指導者へのライセンス制導入などに動き出しているが、もっとスピードを上げて指導者の質の向上に取り組まないと、子どもたちの「野球離れ」はさらに進むことになる。

▽女子に目を向ける

日本高校野球連盟(高野連)によると、高校野球の部員数は09年の約16万9000人からほぼ横ばいを続けているが、この中には女子部員あるいは女子マネジャーが含まれていると見られる。

今夏の甲子園大会の出場校の練習で女子がグラウンドに出て手伝っていたことが問題となった。相変わらず、甲子園は女子に危険の二文字で「開放」されていないし、高野連の古い体質が幅を利かせている。

「野球崩壊」は最後に10の提言をしている。

「野球界を総括する組織の創設」「野球組織からのメディアの排除」などの中に「女子野球の振興」があり、女子野球の甲子園大会創設に言及している。

野球よりサッカーを選ぶ子どもに影響を与える母親を取り込むのは、今の時代では当たり前のことだと思うが…。

▽リーダーの不在

サッカーJリーグを立ち上げ、最近ではバスケットボールの「Bリーグ」を軌道に乗せた川淵三郎氏は本の中で「04年の球界再編のとき、10球団に減らすのではなく18球団に増やすべきだった」と語っている。

全国的に展開することで「スポーツでこの国を豊かにしたい」という理念が生きるというのだ。指導者として揺るぎない信念を感じる。

野球界を総括できるとすれば、やはりプロ野球コミッショナーであろう。20年東京五輪で野球が復活した。「野球を通してこうしたい」という格好のアピールの機会を与えられながら熊崎勝彦コミッショナーからは何も聞こえてこない。

人気絶大のプロ野球は、16年に相次いだ元選手の覚せい剤使用や巨人選手の野球賭博事件も見て見ぬふりか問題に蓋をすることばかりしていた。改革など夢のまた夢だろう。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆