プレゼントをもらうとき、その喜びの大きさというのはサプライズの度合いに比例するのではないだろうか。予想もしていなかった品物を手にした瞬間に人が見せる笑顔はとてもいいものだ。その意味で日本のサッカーファンは、一足早い最高のクリスマスの贈り物をもらったという感じだ。トナカイではなく「鹿」の引くそりに乗った、赤のように見えて実は「えんじ」の服を着たサンタクロース。J1鹿島に感謝したい。

クラブワールドカップ(W杯)決勝戦が行われた18日。夜の横浜から世界中に発信された情報の主役となったのは、史上最多となる5度目の世界一に輝いた“白い巨人"レアル・マドリード(スペイン)ではなく、先発メンバー全員を日本人で固めた鹿島だった。

試合前は日本人も含め、大多数がレアルの楽勝を信じていた。そういう自分自身も、小笠原満男が言い切った「決勝も勝ちにいく」という言葉をどこか信じ切れないでいた。しかし、鹿島の選手たちはこの野武士のようなキャプテンの思いを共有し、強固な意思をプレーに反映させた。

確かにこの一戦は、鹿島にとって素晴らしい条件が重なった可能性はある。情報をほとんど持たないレアルの選手たちが、鹿島を見下していたというとは確実にあるだろう。その気持ちの緩みは、開始9分という早い時間帯で決まったベンゼマのゴールでさらに大きくなった。

ところが、鹿島の選手たちはひるまなかった。試合開始から、恐ろしいほどの闘争心でレアルの選手に襲いかかる。元日本代表監督の岡田武史氏がいう。いわゆる「ハエのたかる」集中守備だ。それでもレアルはフィニッシュの形は作り出せる。しかし、コンディションは万全ではない。そんなチームが「いつでも点が取れる」と慢心したことが、鹿島のわなにはまりかけた原因だった。

それにしても、2年前のブラジルW杯を戦った選手たちが「個」と騒いでいたのがなんだったのかと思ってしまう内容だった。鹿島の37歳コンビ、小笠原がモドリッチをフィジカルコンタクトではじき飛ばし、GK曽ケ端準がベンゼマの決定機をファインセーブで止める。若い昌子源もロナルドとの1対1を冷静にストップし、西大伍がマルセロの背後を簡単に突く。そして、柴崎岳の2本のビューティフルゴール。この日の鹿島の選手たちは「個」でも確実にインターナショナル・レベルのプレーを披露していた。

だからこそ、あまりにももったいない。勝機は十分にあったからだ。延長突入直前の後半終了間際の畳み掛けた攻撃。43分のファブリシオ、44分の金崎夢生、そしてアディショナルタイムに入った49分に遠藤康が放ったシュートのどれかが決まっていたら、サッカーの歴史はひっくり返るところだった。

来季のJリーグで、鹿島がそのユニホームの胸に国際サッカー連盟(FIFA)のチャンピオンを示す黄金色のワッペンをつけて戦う可能性もあったのだ。それが実現しなかったことで一番ホッとしているのは、他ならぬFIFAなのではないだろうか。なぜなら鹿島は今回、開催国の恩恵を受けた枠で出場している。しかし、この大会の趣旨は各大陸連盟のクラブ王者が集い、真の世界一クラブを決めることにあるからだ。

鹿島が試合を押し気味に進めていた2―2の後半終了間際、金崎を倒したセルヒオラモスに2枚目のイエローカードが提示されていたら、延長戦はどのような展開になったのだろうか。キャプテンを退場処分で失ったレアルは、少なからず動揺したはずだ。

ところが、ザンビアのシカズウェ主審は胸ポケットに手を伸ばしかけたもののカードは出さなかった。その判定に永木亮太は「ピッチにいた23人のなかでレアルを一番リスペクトしていたのは主審だった」と、最大限の皮肉を込めて語っていたのが象徴的だった。

このシカズウェ主審は、本物のW杯で笛を吹いた経験がない人物だ。当然、自分のレフェリーのキャリアの中には2年後のロシアW杯も視野に入っているはず。それにはFIFAに良い印象を与えておきたいだろう。

都合のいいことに、今大会ではFIFAが初めてビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)を導入した。ビデオルームとレフェリーが無線でつながっているのだ。あの場面で「ラモスは1枚カードをもらっているよ」と伝えられたら、気の弱い僕なら2枚目のイエローカードを出すのはちゅうちょする。まさか世界に「フェアプレー」を啓発する立場にあるFIFAに限っては、そんなことはなかっただろうが。

とはいえ、やっぱり気になるのはあの場面で交わされた無線の内容だ。メカに強い人なら警察無線を傍受するように、審判がかわす会話を聞くことも可能なのだと思う。FIFAは今後、その対策も講じるのだろうか。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。