今年のプロ野球表彰式(NPB AWARDS 2016)が11月28日に行われ、最優秀選手(MVP)にパが日本ハムの大谷翔平、セは広島の新井貴浩が選ばれた。

大谷はその2日前に発表された「ベストナイン」では投手とDHをダブル受賞している。従来の投票規定が変更され投手と野手、投手とDHの両方に投票(取材歴5年以上の記者による)できるようになったことで起こった初の出来事となった。

「大谷イヤー」にやや影が薄くなったが、セ新人王に輝いた阪神の高山俊は期待通りの「安打製造機」ぶりを見せ、来季以降が楽しみな選手となった。

▽シーズン136安打

1年前、明大・高山は阪神と契約金1億円プラス出来高払い5000万円、年俸1500万円(金額はいずれも推定)で入団を決めた。

痛めていた右手首の有鉤骨(ゆうこうこつ)骨折のリハビリ中だったが、阪神はその将来性を高く評価した。春のキャンプは2軍スタートだったが、開幕戦では1軍で先発出場を果たし初打席初安打までマークするなど順調なプロデビューだった。

終わってみれば134試合に出場して136安打、8本塁打、65打点の成績で打率2割7分5厘は打撃16位だった。

109三振に“プロの壁"を感じるし、2軍に落とされたりしたが、それを乗り越え阪神の新人として最多安打をマークした。

ちなみに、新人の最多安打は佐々木信也氏(高橋ユニオンズ=現ロッテ)の180本で、長嶋茂雄氏は153本、高橋由伸巨人監督は140本だった。

▽プロ向きの性格

右手首の骨折でも、本人はやってしまったことは仕方ない、有鉤骨骨折はバッターには付きもの、くらいに割り切っていたと思う。厳しく鍛えようとする金本知憲監督からファーム行きを命じられても、くよくよするタイプではない。

東京・日大三高時代から高山への周囲の見方は一致していて「あいつはプロ向き」だった。

常にマイペースだった。高校時代から打撃をいじられると打てなくなることがしばしばあった。アドバイスに横を向くことはないが、「自分で考えて気持ちよくやりたいタイプ」なのだと思う。

▽1年春に20安打

高山は明大で1年春からレギュラーの座をつかみ、いきなり20安打。以後、コンスタントにほぼ15安打以上を積み重ね4年秋の東大戦で通算128安打。明大の先輩でもある元巨人の高田繁氏(現DeNAのGM)が持っていた東京六大学の通算安打記録を48年ぶりに塗り替えた。

最終的に131安打まで伸ばした。大学4年間の通算打率は3割2分4厘で、8本塁打、45打点。ベストナインは8シーズンのうち実に6度を数える。

バットコントロールの良さに尽きるのだが、少々詰まった当たりでも安打にできる技術がある。181センチと体格にも恵まれている上に、俊足も大きな武器である。

▽分散した優勝メンバー

日大三高は、高山が3年の2011年に夏の甲子園大会で優勝した。

決勝で青森・光星学院に11―0で勝った試合が象徴的だが、日大三高は投打に抜きん出た強さで10年ぶり2度目の優勝を成し遂げた。

この時のメンバーがすごい。エースは吉永健太朗(早大―JR東日本)、捕手・鈴木貴弘(立大―JR東日本)。3番が高山で、4番が横尾俊建(慶大―日本ハム)で5番は畔上翔(法大―ホンダ鈴鹿)だった。

これらの中心選手は東京六大学リーグの5大学に分散した。

▽1年春に大学選手権MVP

吉永は1年春に4勝を挙げ、その年の全日本大学選手権で優勝に貢献してMVPに選ばれた。

150キロ近い速球と大きく落ちるシンカーが決め球。大学生ではちょっと攻略が難しい投手だった。

しかし、負担の大きいシンカーからスライダーに切り換えようとしたのが裏目に出て、右肘痛などもあり通算11勝止まりでプロから声はかからなかった。

鈴木は1年でレギュラーだったが伸び悩み、最後は主将として引っ張った。

横尾は高校通算58本塁打の長距離打者。慶大での4年間は三塁手として主軸を任された。

4年秋に5本塁打をマークして通算13本塁打。日本ハムから6位指名され入団し、1年目の今季は10試合に出場して17打数2安打だった。

畔上は生真面目すぎる性格も災いして伸び悩んだ。4年秋に高打率を残したが、通算では2割9分2厘、3本塁打に終わり、こだわり続けたプロ入りはならなかった。

あまりプロ入りを勧めない日大三高・小倉全由監督が唯一悔やんだのが吉永で、高卒即プロ入りの道があったのでは、と漏れ伝わっている。

いずれにせよ、東京六大学に「日大三高旋風」が吹き荒れたのだが、その中で高山がトップを走り続けた。

▽明大にこだわった高山

高山の明大入りには、こんな裏話があった。明大は高山と畔上の二人を入学させるつもりで、本命は畔上だった。その畔上が法大進学を決めたことから、高山の入学が一転ピンチに陥ったという。

しかし、高山は明大にこだわり、自分の意思を貫いたのである。こんなところにも高山らしさが出ていると思う。

▽打撃スタイルの確立を

2年目となる来季の高山がどんな打撃スタイルを確立するか、注目している。

というのも、通算2539安打、476本塁打の金本監督が自分とダブらせるように「もう少し長距離を打てるようになればいいのだが」と注文を付けているからだ。

来季はクリーンアップを任されるだろう。ヒットの延長線上に本塁打があるという考えで臨めばいいと思うが、長打を意識し過ぎるとマイナスになる可能性がある。取りあえず、春のキャンプを待つことにしよう。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆