リオデジャネイロ五輪から早くも3カ月がたち、切れ目なく、スポーツ界は4年後の東京五輪に向けて動きだしている。どの競技でも次世代の台頭と、踏ん張るベテランの代表争いが繰り広げられるだろう。個人的に最も気になるのは、レスリング女子の吉田沙保里の去就だ。当面は日本代表のコーチ兼任で現役生活を模索する道を選んではいる。

リオ五輪決勝での敗戦は強烈な印象として残っている。劇的な勝利を収めたほかの金メダリスト以上かもしれない。日本レスリング界をけん引し続け、日本選手団主将も引き受けた。4連覇の偉業に挑んだが、結果は惜敗。号泣してマットに伏せ、謝罪する姿はあまりに痛々しかった。

敗戦から何度か吉田を取材してきたが、いくつかの段階を経て、いつもの明るい様子に戻っている。リオからの帰国直前に、48キロ級で金メダルを獲得した妹分の登坂絵莉(東新住建)と2人でこれでもないかというぐらい泣いて、悲しみに一区切りをつけたという。五輪直後は引退を考え、気持ちを整えるうちに、結論を急がなくていいと自分に言い聞かせるようになった。そして、自然と2020年東京五輪への意欲もわき出てきた。

サービス精神旺盛な性格だ。東京五輪への思いを語れば、周囲は確固たる現役続行と捉える。吉田本人は「アスリートなら、誰もが東京五輪に出たい。純粋な気持ちで頑張りたいと思うけど、そう簡単でないことはよく分かっている」と至って冷静だ。これまでは常に先頭に立って日本代表を引っ張ってきたが「いつまでも私が中心にいてはいけない」と若手たちに奮起を促す。登坂はリオ五輪後の騒動を経験して「注目されることはうれしいけど、責任を伴う。レスリングの成績だけじゃなく、沙保里さんのすごさがあらためて分かった」と痛感した。

東京五輪出場の可能性はどうか。現実的には厳しいだろう。2014年ユース五輪金メダルの向田真優(至学館大)を筆頭に若手が伸びている。減量がきつい登坂も48キロ級から53キロ級に階級を上げる可能性もある。日本協会の栄和人強化本部長は世界選手権などで若手を起用する方針だ。「吉田には指導者として、自分の持っているものを全て若手に伝えてほしい。その上で可能性があるならば、東京五輪代表争いに加わってきてほしい」と期待を寄せる。

吉田は「若手をしっかりと鍛える」と言う一方で、「私にも闘争本能がある。負けたくないという気持ちが出てくるでしょう。4年後の日本の女子レスリングがどうなっているか、楽しみです」と話す。レスリング以外では、11月から母校至学館大の副学長に就任。これまで同様にテレビのバラエティー番組にも出演したりもするという。重圧から解放され、今まで以上に「人間力」を高めるのだろう。その力がレスリングに還元されればまた強くなり、東京五輪への道も…。とも思ってしまう。

森本 任(もりもと・まこと)1998年、共同通信入社。プロ野球担当として阪神、日本ハムを担当。08年北京、10年バンクーバー五輪では柔道、スキーなどを取材。11年1月からニューヨーク支局で米スポーツをカバー。15年1月に本社に戻り、レスリング、大相撲、柔道などを担当。