その先の結果がどうなるのかはわからない。しかし、人間というのは現状維持よりも変化が好きな生き物なのだと改めて思った。世界規模で見ても、英国の欧州連合(EU)離脱。米国の大統領選…。物事が決定してから後悔することもあるだろう。その中で、ことハリルホジッチ監督が率いるサッカー日本代表に関しては、変化を求めた多くの声に対し「新たな可能性」という結果を示して、何かと批判の多かった2016年をうまく締めくくったのではないだろうか。

負ければ6大会連続のワールドカップ(W杯)出場に危うさが増す15日の一戦。W杯アジア最終予選のグループBで首位をいくサウジアラビアとの試合は、久々に緊張感のある内容だった。

ここのところ、誰の目から見ても停滞感の感じられた日本代表。ハリルホジッチ監督は、ここにきてやっと重い腰をあげ、チームに「変化」をもたらした。それはサッカー学を総合的にとらえた理にかなうもの。ここまで、ちょっと固執し過ぎるきらいがあった「経験」と「精神的強さ」という要素の前に、初めて「コンディション」という当たり前の判断基準を持ってきた。

岡崎慎司、香川真司、本田圭佑―。ザッケローニ、アギーレ、そしてハリルホジッチと3代の監督にわたって君臨してきた日本の攻撃の代名詞。所属しているクラブの名前だけでもアジア相手であれば、ビビらせることができる。それを総取り換えしたことは、ある意味での賭けだったかもしれない。トップ下の清武弘嗣の実力はすでに証明済みだが、4日前のオマーンとの親善試合で1年半ぶりに日本代表に招集された大迫勇也、同じくオマーン戦で代表デビューを飾った久保裕也の先発出場は、期待とともに不安を抱えていたというのも正直なところだろう。

本田をはじめとした北京五輪世代から、清武、大迫のロンドン五輪世代、そして久保のリオデジャネイロ五輪世代へ。急激に若返った感のある日本だが、この重要な一戦で30歳のベテランが存在感を示した。最終予選初出場となる長友佑都だ。

右の内田篤人、左の長友。ここ10年、日本は世界に誇れるサイドバックを擁していた。クレバーで戦術的な内田と、抜群のフィジカルを持つ長友。ザッケローニ時代のポゼッションサッカーが可能だったのは、この両サイドバックのボールの収まりがよく、ゲームを組み立てる起点となれたからだ。

しかし、ハリルホジッチ体制になって両翼に起用される「2人の酒井」、宏樹と高徳は正直チームの弱点となりかねない。守備も不用意なミスが多く、クロスも不正確。特に宏樹はJ1柏時代の高速クロスをどこに置き忘れてきたのかというほど、キックの質が落ちている。

サウジ戦で不安視される両サイドバックのうち、一方の不安が消えたのは大きかった。宏樹の不安定さは相変わらずだったが、左サイドの長友は心配なし。さらに守備ばかりでなく、結果的に決勝点となる原口元気の4戦連続となるゴールもアシストするのだから、負傷明けといっても高徳とは大きな違いがある。あとはシャルケで復帰に向けてのステップを踏む内田が帰ってくれば、日本は再び安定感ある両翼を並べられるはずだ。

試合終盤に1点を返されたのは余計だったが、勝負どころで踏ん張って2―1で勝利を収めたサウジ戦。この試合はハリルホジッチ体制になってからのベストゲームといえるだろう。

さらにこの試合では、遠藤保仁が去ってから不在となっていた日本代表の王様、ゲームを自らの意思を持って操ることのできる選手が誰であるかがはっきりした。その意味で今後、清武に寄せる周囲の期待はさらに大きくなっていくだろう。

そして、何と言っても原口の驚くべき成長だ。長友も「すごい選手になっている」と最大限の賛辞を贈ったほどだ。最終予選の4戦連発はもちろんだが、オーストラリア戦も含め2度のPK献上という苦い経験を糧に、守備力も長足の進歩を見せる。

名は体を表すではないが、いくら走っても「元気」そのもの。前半40分に50メートルを全力で守備に戻ってボールを奪取した原口を、長谷部がさらに攻撃で再び60メートルをダッシュさせる。長谷部のイジメにも近いパスに「それはないだろう」と笑ったが、届かないパスにも諦めないで追うハートの強さは原口の現在の充実ぶりを表している。

約1年前、日本代表の左ワイドは宇佐美貴史の話題で一色だった。それがいまは原口だ。1年でこれだけの変化があるのだから、これまでメンバーに大きな変化のなかった日本代表が普通ではなかったのだ。

ブラジルW杯で止まっていた日本代表の時計が、やっと動きだした。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。