今年の日本シリーズは日本ハムが2連敗の後に4連勝して10年ぶり3度目の優勝を飾った。

2004年に本拠地を東京から北海道の札幌に移した。06年のヒルマン監督時代に次いで2度目の日本一になったことになり、あらためてフランチャイズ移転をきっかけにフロントと現場が一体となって優勝を争えるチームに変わったことを示している。

25年ぶりのリーグ制覇の勢いに乗って32年ぶりの日本一を目指した広島にも勝機はあった。ただ、ペナントレースでの独走に続くクライマックスシリーズ(CS)での「楽勝」で燃え尽きた訳ではないだろうが、「どうしても日本一になる」といったギラギラしたものがなく、淡々とプレーする姿が目立ったのも事実だ。

日本ハムの栗山監督の甘い采配も含め、頂点を目指す戦いとしては、残念ながら物足りなさが残ったシリーズでもあった。

▽日本ハム、与しやすし

広島で開幕した日本シリーズ。赤一色に染まった大声援をバックに第1戦で日本ハムの先発・大谷を攻略し、第2戦も競り勝った。

広島らしい足を絡めた攻め、大砲のエルドレッドの2試合連発。なによりジョンソン、野村という両先発が期待通りの好投と満点に近い展開で公式戦、CSの再現に首脳陣や選手たちが「日本ハム、与しやすし」と思ったとしても不思議ではなかっただろう。

▽第3戦で生き返らせる

札幌での第3戦は先発黒田が足をつるアクシデントに見舞われたが、七回まで2―1とリードしていて「勝利の方程式」と呼ばれる強力な救援陣の登板で3連勝も見えていた。

打力を買って起用した左翼・松山の役割は、この時点では終わっていて守備固めをするのが普通。ところが、2死一、二塁から中田の打球はその左翼前に落ち、スライディング捕球を試みた松山が後逸して2者が生還して一度は逆転を許した。

中田は変化球をバットの先っぽでとらえたが、フルスイングしており外野手は「前か後ろか」判断に迷う難しい当たり。ただ、守り慣れた外野手なら、最低でも後ろにそらすことはなかったはずだ。

さらに延長十回2死二塁で大谷を打席に迎えた場面の外野陣は、サヨナラ負け阻止のために前進守備を取るものだが、そうはせず大谷の右前打は本塁でクロスプレーにならなかった。

球団の守備に対する考えだとしたらとやかく言えないが、優勝が決まった第6戦の「動かなかった」場面には首をかしげざるを得なかった。

▽ジャクソン続投

4―4で迎えた八回。セットアッパーのジャクソンがいつものようにマウンドに上がった。6連投。第4戦ではレア―ドに決勝2ランを浴びており、重圧と疲労は相当なものだったろう。

簡単に2死は取ったが、ここから3連打を許し満塁。中田に押し出し四球、投手のバースに中前打。そしてレアードに満塁本塁打を打たれ6失点となった。

なぜ、ベンチは致命傷を受ける前に交代を考えなかったのだろうか。日本ハムの救援陣も絶対的存在はいないし、攻撃はあと2イニングある。しかし、緒方監督は動かなかった。「今年の戦い通り動かない方がいい」とばかりに。今シリーズの広島を象徴するようなイニングに思えた。

▽動けない指揮官

30年前の日本シリーズが頭をよぎった。1986年の広島―西武。引き分けで始まり、広島が3連勝しながら4連敗した。唯一第8戦まで戦ったシリーズだが、広島の阿南新監督は優勝に王手をかけながら、接戦続きにズルズルと戦い負けた。

選手からは「これといった手を打てなかった監督に不満があった」と聞いた記憶がある。結果論と言ってしまえばそれまでだが、やはり「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」ではなかろうか。

▽海の向こうでは

メジャーのワールドシリーズが戦われている。108年ぶりの悲願達成を目指すカブスと68年ぶりの制覇を狙うインディアンスの対戦だが、そこには早め早めに手を打つ両ベテラン監督の姿が見られる。

1勝1敗の第3戦。小差の試合と見た両監督は主導権を握るために全力を注ぐ。特にインディアンスのフランコナ監督の決断はすごく、救援の切り札ミラーを五回途中から早々と投入してカブス打線を黙らせ、七回に決勝点を挙げ1―0で勝った。

フランコナ監督はレッドソックスで2004、07年にワールドシリーズ優勝を果たしている監督で、短期戦の戦いを熟知していると同時に選手を把握していることで知られる。

だから、4番のナポリが不振と見るや、先発から外す決断もする。カブスのマドン監督も4番には長距離打者ではなく「つなぎ役」を求めているというから実にユニークである。

この両チームとも2番に本塁打を打てる打者を置いている点は同じで、最近のメジャーの傾向を表しているも言われている。

▽真価問われる来季

広島・緒方監督のミスばかり書いてきたが、2年目を迎えた今年の緒方監督は「成長した」という評価が一般的である。カッとなる性格を抑え、コーチを使う。日本シリーズはともかく、選手が力を存分に発揮したシーズンだったといえた。

来年は真価を問われることになるが、生え抜きをチームの中心に据え、若い選手が多くいるのは強みだろう。戦力整備に追われる巨人や阪神より、優位に立っているのは間違いない。

今季限りで引退する黒田の存在は実に大きかったが、黒田のようなチームの精神的支柱をつくらなければならない。

広島は伝統的に外国人選手との共存がうまくいっているチームだが、日本の野球向きの選手獲得は在籍した外国人選手がスカウトに関与しているからだと聞いた。

弱小の地方球団が苦労しながら独特の球団経営で生き延び、今季は観客動員数が念願の200万人を突破した。

35年ほど前の黄金時代を再現できるかどうか。日本ハム同様「地方の時代」を象徴するように。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆