デュエル―。サッカー日本代表の指揮官がしばしば口にする単語だ。英語などで「決闘」を意味するこの言葉を強調する割には、自身の采配では戦うことを回避している。

11日にメルボルンで行われたオーストラリア戦を見ながら、そんな釈然としない思いを抱いた人は少なくないだろう。そして、ワールドカップ(W杯)アジア最終予選の前半戦における大一番で、ハリルホジッチ監督に「その程度の策しか持たない監督だったのか」と失望した人も多いのではないだろうか。

アジア王者を相手にアウェーで引き分け。通常であれば悪くない結果だ。しかし、決定的なピンチがほとんどなかったという内容を踏まえれば、十分に勝利を狙える試合だった。ただし、オーストラリアにポゼッションで圧倒されるという、過去に見たことのない悲しい現実を突きつけられてしまいはしたが。

今回はアウェーではあるものの、日本には悪くはない条件がそろっていた。なにせ、オーストラリアは灼熱(しゃくねつ)のサウジアラビアから帰国した直後。しかも、時差8時間というのは、日本代表の欧州組が帰国後に苦しむのと同じ条件だ。長友佑都、岡崎慎司など予想外のケガ人が出てはいたが、時差2時間の涼しいメルボルンに南下する日本の方が楽だった。

その中で始まった試合。守備重視で試合に入った日本にとって、序盤は理想的だった。開始5分に相手のミスをカットした原口元気を基点に、長谷部誠、本田圭佑とつないで、最後は再び原口。冷静な左足シュートで3試合連続のゴールを奪った。

先制点は日本の守備にも好影響をもたらした。攻めに出るオーストラリアに対し、守備に徹する日本選手の意思統一がもたらされたからだ。このところ、不用意にスペースを空けて、そこを突かれてピンチになることが多かった日本。しかし、リードしたことで「守備を固めてカウンター」という図式が出来上がったことで、選手間の距離が狭まった。コンパクトな守備で危険なエリアへオーストラリア選手が侵入するのを防いだのだ。結果、ボールは保持されたが、主導権は日本が握った前半だった。

しかし、うまくいっていないチームには悪いことが起きる。案の定、後半6分にペナルティーエリア内でユリッチが右サイドへ流れたところに、原口が背後からの体当たり。左利きのユリッチが右足でゴール枠へシュートを飛ばせたかは結果論になる。それでも原口は6月のブルガリア戦でもPKを与えていただけに、状況に対する冷静な判断が必要だったといえるはずだ。

押し込まれながらも、守備一辺倒に耐えられる精神力を保っていられるのはリードしているからだ。それがジェディナクにPKを決められ1―1になった。再び勝機を見いだすためにチームの軌道修正をする。それが監督の務めであり、そのために日本協会はハリルホジッチ監督に高い給料を払っている。

確かに事象に対しての捉え方、考え方は一つではない。多くのメディアやサポーターたちの感じ方と、監督の願うものが違うということもあるだろう。それでも、一つだけ言えることがある。この日、同点にされた後にも多くの日本人が勝ち越し点を望んだのに対し、ハリルホジッチ監督は引き分けという最低条件でも受け入れたことだ。

それは、試合後にゴール裏の日本人サポーターにガッツポーズを見せたことに証明される。そして、この姿を見た熱心なサポーターたちは違和感を覚えたらしい。

同点にされた後、押し込まれた状態で最も力を発揮する選手は、本田ではなく裏を狙える浅野拓磨であることは誰でもわかる。攻守に過酷なスプリントを強いられた原口と小林悠。彼らが“ガソリン切れ"だったことは誰の目にも明らかだった。それなのに最初の交代で清武弘嗣が投入されたのは、両足がつった小林がピッチ外に出されて4分後の後半37分。日本はその間、10人での戦いを強いられた。先日のイラク戦で得た教訓は、どこに消えたのだろうか。

それ以外にも数々の疑問がある。そんな状態で「勝ち点2を失った感じ」とハリルホジッチ監督に言われても、まったく説得力を感じない。誰が見ても勝ち点3を取りにいく采配はなされなかったはずだ。

「アウェーでの勝ち点1は悪くはない」。それはホームで勝ち点3を望めるチームが使える言葉だ。しかしいまや、攻撃における連動性やコンパクトな距離感、ポゼッションという、長年かかって築き上げてきた日本の長所は完全に影をひそめた。その状況で11月15日にはグループBで首位に立つサウジアラビアをホームに迎える。そしてこの中東のくせ者こそが「勝ち点1」のサッカーを伝統的に最も知っている。

このサウジ戦に、もし引き分けたとしたら―。日本サッカー界はかなり危うい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。