世界主要4団体で6階級制覇し、4月に引退したマニー・パッキャオ(フィリピン)が早々に現役復帰を表明した。11月5日に世界ボクシング機構(WBO)ウエルター級王者ジェシー・バルガス(米国)に挑戦する。5月に母国の上院議員に当選し、当面は政治活動に集中するとしていたが、現役への未練をにじませていただけに、驚きのカムバックではない。ただ、これまでパッキャオのカードを米国で放映してきたケーブルテレビ大手のHBOが中継を見送るなど、かつての注目度はもはやない。全盛期を過ぎた英雄は引き際を見失っているように見える。

フィリピン・スター紙によると、パッキャオは復帰の理由の一つを「ボクシングが自分の主な収入源。公人としての給与に頼ることはできない。多くの人が自分に助けを求めにくる。それを無視できない」と説明し、国民に理解を求めた。下院議員時代には少なすぎる議会への出席日数が批判されることもあった。今回は直前までフィリピンで調整を積む計画を示すなど「二重生活」で受ける世論の批判をかわそうとする意図がうかがえる。

フライ級での世界王座を皮切りに爆発的な攻撃で階級の壁を次々と打ち破ってきた。米国勢や中南米勢が席巻してきた「本場」のリングでアジア勢として存在感を発揮してきたのがパッキャオだ。だが37歳となり、さすがに衰えは否定できない。2012年に2連敗した時期を境に、果敢に倒しにいくボクシングから、無理はしないスタイルにモデルチェンジ。KO勝ちは2009年を最後にない。AP通信によれば、長年コンビを組む名伯楽フレディ・ローチ・トレーナーは「マニーのボクシングにはまだ未来がある」と話しているが、ひいき目が過ぎるのではないか。

4月の「引退試合」で判定勝ちしたティモシー・ブラッドリー(米国)は12年に一度敗れた相手ではあったものの、その後14年には雪辱していた。今回挑戦するバルガスは初対戦であるとはいえ、ビッグネームではなく、WBOウエルター級王座もかつて自身が保持していたベルト。いくらパッキャオが「(政治で)人々の役に立つことと、ボクシングを両立できると証明するのは大きなチャレンジ」と言おうと、過去の偉業を振り返れば、これ以上闘う意義は薄いように感じる。

視聴ごとに課金されるテレビのPPV(ペイ・パー・ビュー)の件数落ち込みも顕著だ。かつては何度も100万件を超えた。しかし、米スポーツ専門局ESPNによると、直近のブラッドリー戦では40~50万件にしか届かず、プロモーターのボブ・アラム氏は「恐ろしい」と表現。興行は赤字に終わったという。2月に同性愛を動物以下だとする発言で批判を浴び、謝罪。米スポーツ用品最大手ナイキから契約を打ち切られるなどリング外で評価を下げたことも影響したとみられる。最近ではロイター通信に「薬物を試した。多くの種類、あらゆる種類の薬物だ」と過去の麻薬使用を告白したことが波紋を広げた。

陣営が狙っているのは既に引退したフロイド・メイウェザー氏(米国)との再戦だろう。まずは49戦全勝のままグローブをつるした同氏の復帰が前提となるが、ローチ氏は「もう一度メイウェザーと闘わせてあいつを黙らせたい。マニーなら勝てる」と昨年5月に「世紀の対決」と注目を集めた一戦で敗れた相手とのリマッチに意欲を隠さない。ただ仮にメイウェザー氏が復帰して「世紀の対決」第2戦が実現したとしても、残念ながら前回のような普段ボクシングに興味がない層にまで訴えるカードにはならないと予想される。既に拳で築き上げたキャリアがまぶしすぎるだけに、上院議員選を機にリングに別れを告げるという絶好のタイミングを逸したという気がしてならない。

いずれにしても、まずパッキャオは自身にまだ価値が残っていることをリングで示さなければならず、バルガス戦はその試金石となる。復帰を決めたからには、大物食いで名をはせた「パックマン」にふさわしく、自らも納得できる花道を見つけることを願うばかりだ。

木村 督士(きむら・ただし)1979年生まれ。大阪府出身。2005年共同通信社入社。大阪運動部を経て2010年から本社運動部でボクシング、大相撲、プロ野球を担当。現在は米プロスポーツなどをフォロー。