同じリーグを戦いながらも、すべてのチームが同じ条件で戦っているわけではない。10日に行われたJ1第2ステージ第11節、FC東京対湘南を見て、改めてそう思った。

思い返せば、ほぼ1年前の同じカード。昨年の10月17日に敵地・味の素スタジアムで湘南はFC東京を2―1で下して、J1残留を決めた。試合後の記者会見で湘南の☆(曹の曲が由)貴裁監督はこのような言葉を発している。

「われわれの選手は練習でも試合でも、100パーセントを出すしかないんです」

「来年もJ1でプレーできる彼らに、おめでとうと言いたい」

目を潤ませながら語っていた指揮官の姿が、いまだに印象に残っている。それほどに湘南というクラブにとって、昨年のJ1残留は、価値のあるものだったのだろう。

新シーズンが開幕するとき、すべてのチームの選手は優勝を狙う気構えを持ってスタートを切るはずだ。ただ、優勝を狙うチームは限られているのが現実だ。

J1に限ると、昇格チームがいきなり優勝を飾ることがあるので断言しにくい。だが、通常のリーグは資金力に合わせて、三つのグループに分かれる。第1グループは優勝を狙うチーム。第2グループは中位をキープし、あわよくば上位を狙うチーム。そして、第3グループはまずは降格を逃れることが最大の目標となるチームだ。

昨季までの大黒柱だった永木亮太らが引き抜かれた湘南。今季は戦力的に見て厳しいかなというのが、一般的な見方だった。それは福岡にもいえるのだが、ベースとなるチームの力は必ずしも高いとはいえないのだ。

確かに、チームというのは単純な足し算だけで築き上げられるものではない。同じ「低迷」の文字が使われても、シーズン途中に監督が交代したFC東京や名古屋とは、その内実は明らかに質の違うものだろう。

頑張るチーム、一生懸命戦うチームというのは、例え結果が伴わなくても周囲から見放されることは稀だ。逆に判官びいきから好感を持たれることも多い。そして、現在の湘南というのは、周囲からそのような目で見られているのではないだろうか。

これは昨年の松本にも共通するが、恵まれているとはいえない戦力でJ1に昇格したチームはよく走り、とにかく頑張る。そして、そのスタイルをチームに徹底的に植え付ける優れた指導者がいる。湘南の☆(曹の曲が由)監督であり、松本の反町康治監督だ。彼らが日本でも優れた指導者であることは疑いようがない。しかし、ピッチを走るのは監督ではなく、選手だ。当然、限界というのも出てくる。

FC東京戦に話を戻すと、湘南は0―3の完敗を喫し、J1残留にも9連敗とかなり苦しい状況に追い込まれた。それでもFC東京に比べれば、確実に多く走り、頑張っているという感じは伝わってきた。

そのなかで頑張りだけでは解決できない問題があったのも事実だ。苦労をして奪ったボールを、単純なパスミスから相手に渡してしまう。特に前半39分、攻めの人数がそろったなかで起きた不用意なボールロストは、相手ボールを奪うことに多大な労力を払っていただけに、攻めに出た選手たちの心理的疲労度が気になるプレーだった。

8連敗を喫した状況でのリーグの中断期間。天皇杯の試合はあったが、J1での巻き返しのために☆(曹の曲が由)監督は、周到な準備を推し進めてきた。ところがFC東京戦では、結果にではなく、予想外の選手の姿勢に監督自身が大きなショックを受けてしまったようだ。

本来は試合後の監督記者会見は、アウェーチームから始まる。しかし、この日はFC東京の篠田善之監督が先だった。湘南のミーティングが長引いたからだ。ロッカーでかなりのことが話し合われたようだった。

そして、☆(曹の曲が由)監督は会見で次のように語った。

「勝ち点3を取るために準備してきた。ただ僕がある程度ここまでやれるということを、選手がやれると思っていなかった」

勝ち負けの結果は怖くはない。怖いのは選手が自分たちの限界を決めてしまうということだと☆(曹の曲が由)監督はいう。だからリスクを冒すことを恐れてはならないというのだ。

「自信なんて誰も持っていないんです。でも、自分のやってきたことは信じられる」

年間順位が17位と湘南の苦しい立場は変わらない。そのなかで心に響く言葉を持ち、信じるに値する指導者がいる。選手たちはそんな監督に最後までついていくしかない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。