「こんにちは、皆さん。ジョセフでございます」。第一声は愛嬌たっぷりの日本語だった。ラグビー日本代表の新ヘッドコーチ(HC)に決まっていたジェイミー・ジョセフ氏が正式に就任した。エディー・ジョーンズ前HCが率いて強豪の南アフリカ代表から金星を挙げて間もなく1年。ホスト国として迎える2019年ワールドカップ(W杯)では何より結果が求められる。鍵になるのは、歴史的3勝を挙げた15年W杯から何を引き継ぎ、何を変えるかだろう。

どういう戦術をとるのか執拗に聞きだそうとする報道陣に対し、ジョセフ氏は「私はエディー(ジョーンズ前HC)ではない。今までやってきたことをそのまますることはしない」とはっきり宣言した。

ジョーンズ前HCの日本代表は、相手に攻撃権を与えないためキックを極力使わず、パス主体に攻めを継続するのが特徴の一つだった。互角に渡り合っては身体能力で劣る日本が負ける。そのため、守備の時間を減らしながら好機をうかがうのが狙いだった。ただ、世界を見ればキックを活用するのが主流。ジョセフHCは「キック」をキーワードに挙げ、「世界の傾向はキッキングゲーム。賢いチームが勝つ。キックのスキルが求められる」と説いた。

懸念されるのは、これまでよりオーソドックスなスタイルで日本代表が勝てるかという点。個々の能力ではいまだ世界レベルから劣り、がっぷり組んでしまえば厳しい。それも理解しているジョセフ氏は「いかに相手と自分たちの違いをあぶり出し、日本の強みを発揮していくか」と語った。日本の強みをどう表現するのか、手腕が問われるところだ。

最近、ジョーンズ前HCを取材する機会があった。かつて「今回W杯で残した日本のレガシーを今後も生かしてほしい」と積み上げの重要性を主張していた世界的名将も、ジョセフHCに気を使ってか「(どういうスタイルにするかは)ジョセフHCが決めること」と慎重な言い回しに終始した。ただ、男子テニスの日本のエース、錦織選手と四大大会最多優勝回数を誇るフェデラー選手を例にした話を始めると饒舌になった。

「どちらが練習をしていると思いますか」とわれわれに問いかけ、錦織選手と答えると「そうです。それでもフェデラー選手の方が、実績がある。錦織選手の才能は素晴らしい。それでも、さまざまな面でフェデラー選手の方が上。埋められない差というのはあります」と語った。そして、錦織選手をラグビーの日本代表に置き換えて話を続けた。「ラグビーも同じです。肉体的な差は完全には埋まらない。じゃあ日本はどうやって昨年のW杯で勝ったか。まずは猛練習をして差を縮めた。その上で、南アフリカがベストでなかったので、チャンスが生まれた。その隙を突いて勝利したんです」。

「小柄な日本」がいかにして世界の強豪に勝つかというテーマはいつになっても変わらない。そうした状況を踏まえ、以前から日本関係者からは「誰が指揮官になっても引き継がれるような日本のスタイルを確立させる必要がある。ジュニア世代、ひいては大学、高校まで同じようなスタイルが広がれば日本代表も強くなれる」という意見が多くあった。昨年のW杯で好成績を収めた、この機を逸してはならない。ジョセフHCだけではない。今こそ日本ラグビー界の「進化」に向けた取り組みが問われている。

渡辺 匡(わたなべ・ただし)2002年共同通信入社。和歌山支局、大阪社会部などを経て11年から運動部。ラグビー、テニス、スケートなどを担当。東京都出身。