目の前に広がった光景が異様に映った。

夏の甲子園の2回戦、東邦(愛知)―八戸学院光星(青森)。九回、東邦は4点差を追いかける展開だった。甲子園では敗色濃厚のチームが何度も逆転劇を演じてきたが、現実的にはひっくり返すのが難しい点差だ。

ドラマのきっかけを作ったのはアルプススタンドに陣取ったマーチングの名門、東邦の吹奏楽部。楽器を手に踊り、振り付けながら、吹き鳴らす。プロ野球ロッテの応援をモチーフとした軽快な応援曲に乗って、一塁側アルプススタンドの応援団がタオルを回し始めた。ヒットが1本、2本と続く度にタオル回しが球場全体に伝播していった。気がつけば、八戸学院光星が陣取った三塁側アルプススタンド以外すべての客席で、タオルが回っていた。

バックネット裏の前列には今春の選抜大会から導入された、軟式野球チームの小中学生を中心に無料招待する「ドリームシート」と呼ばれる座席がある。ここに座っている子どもたちも振り回し始めた。マウンドの投手にとってみれば、視覚的、心理的に集中しにくい状況だろう。結局、打ち込まれて九回裏のスコアは「5×」。マウンドに立ち尽くした八戸学院光星の桜井投手は、試合後に「周りの全員が敵なのかと思った」と語った。

大逆転劇そのものはファンの心を打つものだった。観客に対しての観戦ルールは特になく、大会規定に「タオルを回すな」とは記載されていない。応援の方法は自由だが、高校野球の最高舞台、甲子園で、どちらか一方のチームを応援するスタイルが過剰な形で現れ、実際に試合結果を動かしてしまったようにも見えた。

試合後、東邦の選手は「応援に鳥肌が立った」「甲子園が揺れていた」「体験したことがない異様な空間だった」と口にした。一方の八戸学院光星側は頭を抱え、おえつして涙を流す選手も。悔しさとともに「なんで…」という思いが去就しているのだろう。「回りがすべて敵」と感じた甲子園。選手はトラウマを抱えないだろうか。

青森に戻った八戸学院光星の仲井監督が電話で対応してくれた。「応援で負けたわけではない。東邦さんが、アルプスが醸し出した雰囲気を力に変えた。それを抑えられる技術や力がない。桜井は周りが敵だったと言っていましたが、私は抑えるだけの力がなかっただけだと思います。東邦さんも打撃技術がないと、あそこで連打は続かない」。さらに言葉を続けて「甲子園の判官びいきということは今に始まったことではない」とも説明してくれた。春夏通じて48勝を積み上げた明徳義塾(高知)の馬淵監督、テレビで長年、高校野球の解説を務めた秀岳館(熊本)の鍛治舎監督も同様のことを言っていた。

今年の夏は、この試合だけでなく、劣勢のチームの攻撃時に手拍子が巻き起こり、一方的な応援が起こる試合があった。他の高校スポーツでは見たことがない光景で、若い彼らにとっては酷な状況だったように感じた。

三木 智隆(みき・ともたか)1978年生まれ。奈良県出身。7年間のスポーツ紙勤務を経て2009年に共同通信へ。ゴルフ、陸上などを担当、ロンドン五輪とソチ・パラリンピックを取材した。14年5月に大阪運動部へ移り、高校野球を中心に取材している。