今年の都市対抗野球は、7月26日にトヨタ自動車が出場18度目で初優勝を飾って閉幕した。

最優秀選手(橋戸賞)にはトヨタのエース佐竹が5試合中4試合に登板して4勝(2完封)を挙げ、文句なく選ばれた。32歳。早大時代は150キロをマークする速球投手だったが、リーグ戦では4勝止まり。プロ野球からは見向きもされなかった。

身長169センチの右腕は、社会人野球で投球術とスタミナを付け、今大会ではわずか1失点、計30イニングで36奪三振。秋の日本選手権4度制覇のトヨタを、主将として初めて夏の優勝に導いた。

自身のプロへの思いと夏に勝てないこともひっくるめて「見返せたと思う。社会人11年目でやっと解放された」と、東京ドームに詰めかけた大応援団の前で涙を流した。

▽藤岡と菅野

決勝でのトヨタの相手は日立製作所。両チームに昨年まで大学野球で活躍した選手がいた。トヨタの藤岡と日立の菅野両外野手である。

藤岡は亜大が2014年春に6連覇を達成したときの主力選手で強肩が売り物。大学時代の三塁手から右翼にコンバートされていたが、今大会でも好返球で走者を刺すプレーがあった。

菅野は明大で28本の通算最多二塁打記録を樹立した巧打者である。

ともにプロ入りを目指していたが、指名されなかった。新人ながら4番を任された菅野は「そこそこ打てたけど、ここというときの一本が出ない反省はある。高い次元に目標を置いている」とプロ野球を意識している。

同じ失意を味わった藤岡は「長打力を身につけたい」と、来年のドラフト会議を見据えている。

▽ドラフト候補

今秋のドラフトで上位指名が確実と見られる一人が東京ガスの山岡投手だ。広島・瀬戸内高から入社して今年で3年連続して都市対抗に出場。切れのある変化球に速球で三振が取れる右腕で、短いイニングならすぐにでも使えるだろう。

来年のドラフトでは佐野日大高出の2年目左腕、JR東日本の田嶋や、立命大―日本新薬の西川あたりが上位指名候補だ。

昨年のドラフト会議では社会人(独立リーグの一人を含む)から投手18、捕手4、内野手4、外野手1の28人が指名された。1位指名こそなかったものの、高校と大学の30人ずつとほぼ同数ながら即戦力として期待されての指名である。

▽プロ選手加入でレベルアップ

社会人野球は今では、指導者はもとよりプロ野球経験者がどのチームにもいるのもレベルアップしている要因だ。

トヨタは元DeNA、ソフトバンクの細山田がマスクをかぶり続けた。日立には元ロッテの荻野、元西武の山本両投手がいた。

元ロッテや米国野球経験者の渡辺は現役生活の終わりの場所として新日鉄住金かずさマジックに16年ぶりに帰ってきた。本番の登板はなかったが、予選で活躍した。

幸か不幸か、社会人が実力を保っているのは、プロ野球が保有選手の枠を70人プラス育成と狭めているからだ。メジャーのように傘下に多くのファーム球団を抱えていれば、こうはいかない。

▽長距離打者の育成を

別の言い方をすれば、プロ野球が選手の育成を高校、大学、社会人に頼っているのだ。その社会人でもうまくいかないのが「長距離打者の育成」である。

長距離砲不足は右投げ左打ちと勝利至上主義のマイナス面が出ていると思うが、大学や社会人でホームランバッターが話題に上ることが少なくなった。ここはプロ経験者の出番ではないだろうか。

▽社会人で“浪人"

社会人野球に入れば、大学出身は2年間、高卒なら3年間はプロ入りできないと取り決められている。

かつての阪神の福留のようにPL学園高時代に近鉄から指名されながら、希望球団ではないと3年間、日本生命でプレーして中日入りしたケースもあった。

選手争奪をめぐってプロとアマが激しく対立、断絶した時代を経た結果のルールづくりだが、今やプロとアマの垣根が取り払われたことで、交流が一気に進んだ。プロ野球界にとっては、社会人はありがたい受け皿なのである。

▽田沢ルール

なのに、プロ側の身勝手さも目につく。2008年、新日本石油JX―ENEOSで優勝し最優秀選手となった田沢投手がメジャーのレッドソックスと契約すると、メジャー退団後は2、3年間はプロ入りさせないという「田沢ルール」を一方的につくった。

日本ハムの大谷が高校から直接メジャーを目指すと公言したときも問題になりかけた。プロ野球選手会も「選択の自由」から反対意見を表明している。

▽違う意識

多くの社会人チームは仕事をしながら練習をやっていて、選手個々の野球に対する意識は高い。しごきといった練習はまずないだろうし、過酷な投球回数を無理強いすることもない。

プロを目指す有望な高校生選手は社会人野球に進むことを勧めたいほどだ。

会社として周囲からの目も意識せざるを得ないし、選手に対する教育もおろそかにできない。不祥事でも起こそうものなら、世間の厳しい批判にさらされる。地域とともにある社会人野球の特徴ではないかと思う。

▽企業スポーツ

都市対抗は1927年(昭和2年)に第1回大会が開かれており、プロ野球の歴史より古く、大学野球とともに人気を二分していた。

日立は今年で創部100年を迎えているが、現在も存続するチームではJR北海道が108年の歴史を誇っている。

プロ野球人気の沸騰とともに注目度が低くなっていったのは時代の流れだろう。最盛期の1963年には237チームあったが、バブル崩壊を機に減り続け、現在では88チーム。それでも日本のスポーツ界を支えてきた企業スポーツの象徴みたいなものだと思う。

今大会に出場した西部ガスは2012年に「会社が一体となって応援できる存在がほしい」と、時代に逆行するように創部した。もう一つの狙いが地域との連携。九州出身選手主体のチーム構成なのは言うまでもない。

プロ野球もファームを独立して地方に置くことを考える時期ではないだろうか。都市対抗を見ながら、そんなことが頭に浮かんだ。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆