プロ野球ペナントレースは各球団が折り返し地点あたりだが、昨年のセ・リーグの6月戦線で起こった珍事を思い出す。

トップを併走する巨人と阪神が勝率5割で、6月13日には全球団が貯金0となった。

交流戦でセの球団がパ・リーグに大きく負け越す結果で起こった珍しい現象だったが、その結果、首位から最下位の広島までわずか2・5ゲーム差という大混戦となり、終盤まで競り合いが続いたものだ。

今年は2~6位が4ゲーム差(6月29日現在)だが、昨年と違って広島が2位以下に9ゲームの大差をつける独走態勢に入りつつある。

開幕4連勝だった巨人、さらに阪神がともに失速気味になっているのとは対照的な戦いなのである。

▽交流戦3位の好成績

今年の交流戦は昨年ほどではなかったものの、またもパの圧勝。交流戦優勝のソフトバンクを筆頭に、上位6位を5球団(オリックスは12球団で最下位)が独占した。その中で広島が11勝6敗1分けの3位と好成績を残した。

6月14日の西武戦で「コリジョン(衝突)ルール」が適用されてのサヨナラ勝ちし、そこから6連勝。その勢いのまま交流戦明けの阪神、ヤクルトに連勝し6月29日には、なんと32年ぶりの11連勝をマークして勢いを見せつけた。

▽「マエケン」不在の痛手なし

交流戦の広島は、4年目の21歳の鈴木が、2試合連続サヨナラ本塁打を含む3試合連続の決勝本塁打を放つ爆発力を見せるなど、全体に機動力を含めた打線の活躍が目立った。

交流戦後は投手力の安定感が目につく。ジョンソン、野村、黒田らの先発陣。中盤以降は新加入のジャクソン、へーゲンズ、そして抑えに中崎と「勝ちパターン」ができた。大黒柱だった前田健太のメジャー移籍の痛手を感じさせない戦いぶりなのだ。

球団のチームづくりにも変化が見られる。もともとお金をかけないで選手を育てることには定評があったが、中堅・若手選手の成長に加えて即戦力となる大学出身投手の獲得、FAで球団を出た新井を阪神から、黒田をメジャーから復帰させるなど「自分で出て行った選手は復帰させない」とした不文律を変えたのも大きい。

「カープ女子」など斬新なアイデアでファンを獲得している広島は「残る目標は優勝」とばかり、勝つことに全力を注いでいる。

最近、中継ぎ投手として新外国人選手のデラバーを約4000万円で獲得して夏場に備えている。

▽カープファンのトラウマ

広島は12球団で一番長く優勝から遠ざかっている球団だ。過去6度のリーグ優勝と3度の日本一を成し遂げているが、1991年に山本浩二監督で優勝したのを最後にリーグ制覇はない。

96年の三村敏之監督時代に夏場まで巨人に11・5ゲーム差を付けながら、「長嶋巨人」に逆転優勝を許した。「メークドラマ」という言葉まで贈呈した苦い記憶がぬぐいされず、ファンにはトラウマとなっている。今でも「11・5ゲームでも勝てんのじゃけぇ」と心配して嘆くのだ。

▽CSが助け船

勝負事だから下駄を履くまで分からないのはその通りだが、夏場まである程度の差を付けていれば、展望が開ける可能性はある。

というのも、今のプロ野球はクライマックスシリーズ(CS)があり、何が何でも1位でなければならないものではない。

トップとの差を見ながら途中から2、3位狙いに変えざるを得ないチームも出てくるはずだ。

特にセは2~6位の大接戦が予想されるから、案外CSが広島の助け船になるかも知れない。

▽コーチの役割

昨年の広島は阪神との3位争いに最後の最後で敗れた。緒方監督の1年目だったが、コーチ陣を一新して今季に臨んでいる。

中でも、昨年は2軍監督だった高(こう)コーチをヘッドコーチに据えたのが大きいのではないかと思っている。

49歳の高コーチは福岡・東筑高から内野手としてドラフト2位で86年に広島に入団。13年間の選手生活では通算668試合に出場し139安打と目立った成績は残せなかったが、引退後はチームスタッフを経てコーチとなった。選手の信望が厚いことで知られている。

▽秘書型と参謀型

監督を補佐するヘッド格には「秘書型」と「参謀型」がある。秘書型はその字の通り、監督に寄り添い、決して表には出ないタイプだが、参謀型は監督の代行者としてチームを取り仕切る。高コーチはどちらかといえば秘書型に近いと思う。

名将の下には必ず名参謀がいた。思いつくままに挙げれば巨人・川上哲治監督には牧野茂、阪急・西本幸雄には上田利治、西武・広岡達朗には森祇晶、中日・星野仙一には島野育夫、中日・落合博満には森繁和というように。

緻密さで知られる野村克也氏の野球も、南海時代に同僚だったブレイザーから得たメジャーの知識が基礎になっている。

新監督の巨人・高橋監督には村田コーチ、阪神・金本監督には高代コーチがいる。監督の性格にもよるが、選手やコーチをまとめる上でもヘッド格の役割は重要である。

▽25年ぶりVなるか

当面のライバル巨人の戦いを見ていると、やはり戦力低下は否定できない。高橋監督は勝つことと同時にチームの再建という難題を担わされている。

阪神も同じようなチーム事情にある。「勝ちながら育てる」のは至難の業で、広島に有利な材料となる。

25年ぶりの優勝のチャンスに広島市内も盛り上がっていることだろう。

75年に古葉竹識監督で初優勝してから40年経つが、あのときの町の雰囲気はいまだに忘れられない。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆