6月3日に死去したムハマド・アリ氏(米国)が君臨したボクシングのヘビー級に新時代が訪れそうだ。2012年ロンドン五輪金メダリストで国際ボクシング連盟(IBF)王座に就いたアンソニー・ジョシュア(英国)を筆頭に歴史に名を残す可能性のある新たなスターが台頭してきた。ジョシュアはアリ氏同様の五輪王者というキャリアも魅力で期待は大きい。マイク・タイソン(米国)が1980年代後半までに圧倒的なパワーとスピードで世界主要団体の王座を統一した時代を懐かしむ筆者としては、まだ物足りない面はあるが、これからが楽しみになってきた。

ボクシング界の歴史を彩ってきた最重量級も近年は注目度が低下し、停滞気味だった。変化のきっかけは昨年11月。世界主要3団体王者ウラジーミル・クリチコ(ウクライナ)がタイソン・フューリー(英国)に敗れ、11年ぶりに黒星を喫した。クリチコは名王者だが、長いリーチとクリンチに頼る闘い方は消極的で「面白みに欠ける」との批判も多く、ヘビー級人気低迷の一因に挙げられていた。そのクリチコが自身を上回るサイズのフューリーの長いリーチに苦しんで王座から陥落すると、今年4月にはIBF王者チャールズ・マーティン(米国)に挑戦したジョシュアが2回KOで圧勝した。また北京五輪銅メダリストのデオンテイ・ワイルダー(米国)は昨年、世界ボクシング評議会(WBC)タイトルを獲得し、久しぶりにヘビー級王座を米国にもたらした。「ヘビー級に興奮を取り戻したい」と主役の座をうかがう。引退したフロイド・メイウェザー(米国)ら中軽量級の選手に押され気味だった状況から、ヘビー級にもボクシング界の顔になり得る存在がようやく出てきた。

人気復活のさらなる起爆剤には、2002年のレノックス・ルイス(英国)―タイソンのように、実力、人気を兼ね備えたスター選手同士のカードが組まれることが一番だと思う。最終的には世界主要4団体のベルトを統一する王者が誕生すれば、ファンの視線も最重量級のリングに戻るはずだ。

ただ、実現は簡単ではないとみている。ボクシングの試合は興行をめぐって、対戦する陣営同士のさまざま思惑が絡む。チャンピオンになれば一般に強敵とされる指名挑戦者と闘う義務は生じるが、自分が負けるかもしれない強い相手との対戦をあれやこれやと理由をつけて避けるのは珍しい話ではない。幸いにもジョシュアは地元英国だけでなく米国での期待値も高い。米ケーブルテレビの幹部がジョシュアとワイルダーの対戦を「来年には見たい」と話すなど、大物対決を求める声は業界内にもある。ワイルダー本人もジョシュア戦に「いずれリングで相まみえることになる」と前向きなだけに、ぜひその言葉を実践してもらいたい。

1971年のジョー・フレージャー(米国)―アリの一戦と同様に「世紀の対決」と呼ばれた昨年のメイウェザー―パッキャオは、鉄壁の防御で無敗を誇るメイウェザーを爆発的な攻撃力を持つパッキャオなら打ち破れるのではという期待感が、普段ボクシングを見ない人もひきつけた。ヘビー級でもボクシング界の流れを変えるような夢の対決の実現が待ち望まれる。

木村 督士(きむら・ただし)1979年生まれ。大阪府出身。2005年共同通信社入社。大阪運動部を経て2010年から本社運動部でボクシング、大相撲、プロ野球を担当。現在は米プロスポーツなどをフォロー。