日本選手がリオデジャネイロ五輪に出るチャンスを、日本選手が摘み取る。ちょっと見ていられないシーンがバドミントンであった。5月1日まで中国の武漢で行われた五輪出場枠を争う最後の大会、アジア選手権でのことだ。当時のランキングで女子ダブルス世界ランキング9位だった福万尚子、与猶くるみ組(再春館製薬所)は決勝まで勝ち上がり、あと一つ勝てば世界ランク8位に上がってリオ五輪の出場権をつかめるところまできた。決勝の相手は世界ランク1位の高橋礼華、松友美佐紀組(日本ユニシス)。既に五輪出場を確実にしていた。

日本人として素直に、福万、与猶組にも五輪の夢舞台を踏んでほしいと思った。所属したパナソニック、ルネサスと2度も休部や廃部を経験するなど苦しんでいる姿も見てきた。所属先は違うが、年間200日以上も日本代表で活動をともにしている高橋も松友も、そういう思いがゼロではなかったように思う。しかし、スポーツの世界では、道を譲るように勝ちを譲るわけにはいかない。

ましてやバドミントンは、2012年ロンドン五輪で無気力試合という“事件"を起こした。女子ダブルス1次リーグで既に突破を決めていた中国や韓国などの4ペアがラリーをしようともせず失点を繰り返し、決勝トーナメントの組み合わせを自国の思い通りにしようとした。批判を浴びて慌てた世界連盟(BWF)が4ペアを失格処分にした。BWFは最近も八百長のような動きには厳しく対処すると声明を出している。

話をアジア選手権に戻そう。準々決勝、準決勝と記録的な長さの試合を制して勝ち上がった福万、与猶組には、どう見ても余力が残っていなかった。準決勝の直後は「決勝のコートに立てるだろうか」と心配してしまうほどだった。予想どおり、世界1位ペアがストレート勝ちした。しかし、記者席で隣だったBWFの広報担当者からは「素晴らしいスポーツマンシップだ。バドミントンというスポーツを守ってくれた」と握手を求められた。当たり前のことなのだが、過去の経緯もあり、よくぞ正々堂々と戦ってくれたという意味合いだろう。私もまた誇らしい気持ちを持った。

高橋、松友組の意識はどうだったのか。察するに、今回のような状況で向けられる周囲からの視線とは別の次元で2人は戦っている。高橋は「私たちは五輪の金メダルを目指している。だからどんな試合でも負けられなかった」と言った。世界一を狙うレベルで戦い続けるには、相手に関係なく全力を尽くすだけ。隙など見せられないという意味だろう。

バドミントンのリオ五輪出場枠は、昨年5月から丸1年の国際大会で稼いだポイントで計算されるランキングで決まった。福万、与猶組にとっては1年間でポイントを稼ぐチャンスがほかにもあったわけで、本来同情する必要もないし、彼女たちも同じ気持ちだと信じている。ただ結果的に女子ダブルス唯一の代表になった高橋、松友組には、ちょっぴり違ったプレッシャーが掛かるのかもしれない。彼女たちの五輪本番での活躍を願わずにはいられない。

森安 楽人(もりやす・らくと)2008年共同通信社入社。大阪支社運動部でプロ、アマ問わず幅広く取材し、2013年末から本社運動部。現在は主にゴルフ、バドミントン、テニスなどを担当。スポーツ科学を学んだ筑波大時代は、バドミントンに打ち込んでいた。大阪府豊中市出身。