よく“勝負は時の運"と言う。14日に行われたテニスのイタリア国際男子シングルス準決勝においてノバク・ジョコビッチ(セルビア)と錦織圭が今季4度目の対戦を行い、最終セットをタイブレークにまで持ち込むも敗れる試合があった。勝者のジョコビッチが試合後「スタッツ(統計数データ)を確認したら一つしか自分は彼を上回っていなかった」と語り、どちらが勝利してもおかしくない試合であったことを自ら認めた。勝利を飾るには実力と才能は絶対必要だ。その上で、ほんのわずかな幸運が勝利の女神を引き寄せることとなる。

そして、翌15日に開催されたF1のスペインGP決勝で驚くべき新記録が誕生した。その主役は2015年10月21日の当コラムで紹介した、マックス・フェルスタッペン(オランダ)である。昨季、史上最年少となる17歳でF1デビューを飾った若者が、これまた史上最年少記録の18歳227日で初勝利。従来の記録は、フェラーリのセバスチャン・フェテル(ドイツ)がトロロッソ・フェラーリに在籍していた08年のイタリアGPで優勝したときの21歳73日だったので大幅に塗り替えたことになる。

今回の勝利はいくつもの幸運が積み重なった。まず、それまで所属していたトロロッソ・フェラーリから兄弟チームで「1軍」とも言うべきレッドブル・タグ・ホイヤーから出走することになった。レッドブルのダニール・クビアト(ロシア)が2戦連続で大きなクラッシュを引き起こし、トロロッソへ“降格"したためだ。さらに、絶対王者であるメルセデスの2台がスタート直後の1周目に同士打ちとなりともにリタイア。フェラーリの2台とチームメートであるダニエル・リカルド(オーストラリア)との勝負になった。

さらに幸運は続く。レッドブルのマシンがスペインGPのサーキット特性に合っていたため、より高い性能を発揮したこと。そして、フェラーリとレッドブルともに、ドライバーのタイヤ交換を2回と3回に分けたが、チームの指示で2回交換になったことがフェルスタッペンにとって有利に働いたことなどだ。自身ではどうにもならない幸運が重なったことで初勝利が転がり込んだわけだが、負けたフェラーリの2人のドライバーもただ運ではなく彼に実力があったのだと脱帽した。

往年の名ドライバーであるゲルハルト・ベルガー氏もその才能を絶賛する若い才能が頭角を現そうとしている。貴重とも言える、その瞬間をF1ファンは今まさに、目の当たりにしているのかもしれない。(モータージャーナリスト・田口浩次)