サッカーの戦術は、極端にいえば4年ごとに大きな変革を見せる。そのモデルチェンジの転機となるのが、「サッカーの見本市」ともいえるワールドカップ(W杯)や欧州選手権といった一大イベントだ。

目まぐるしく変わるサッカーの化学式は、その時点では最新のものでも、4年後には古くさいものとなっている場合もある。そんな進化を求められるサッカーという競技で、10年前まではほとんどプレースタイルの変わらないポジションがあった。長い歴史の中で多少の変化を求められたのは、1992年の一度だけ。ルールが変更され、味方からのバックパスを手で扱えなくなったのだ。このことに世界中のGKは大きく戸惑ったのだが、競技全体から見れば大きな出来事ではなかったのだろう。

ところがここ5、6年、GKのポジションにとんでもない変化が起こっている。基本的には100年近く変わらなかったゴールキーピングの方法が、まったく別物に移行しようとしているのだ。それをフィールドプレーヤーで例えると、インサイドキックをまったく違うフォームで蹴れというものにも等しい。

サッカーのGKが、サッカーのGKではなくなっている。そのことが顕著に現れるのが、相手選手と1対1になる場面だ。10年前までのGKだったら、間違いなく先に体を倒してシュートコースに壁を作っていた。一方、最新型のGKは上半身がハンドボール、下半身はアイスホッケーのGKの動きをする。

典型例は欧州チャンピオンズリーグ(CL)準決勝のマンチェスター・シティ(イングランド)対レアル・マドリード(スペイン)の第1戦でもあった。そのプレーを目にした人も多いはずだ。場面はレアルのCK。ゴール前にフリーで抜け出したペペの左足シュートを、シティのGKジョー・ハートが腹部でブロックした印象的なセーブ。あれこそが最先端のゴールキーピングだ。

このプレーで特徴的なのは、自ら先にアクションを起こさないことだ。上半身は相手に正対し、両手を大きく広げてボールを阻止する面積をなるべく大きくする。そして両足は、大相撲の力士が行う股割のように柔軟に伸ばしてボールをブロックする。その動きは低い弾道のパックをストップするアイスホッケーのGKの足さばきだ。

1対1の場面で、自ら先にダイブしない守備。これは疑いなく以前より効果的なゴールキーピングなのだろう。それを納得させてくれたのがイタリアのジャンルイジ・ブフォンだった。2008年の欧州選手権では従来型だったブフォンが、4年後の2012年大会では倒れないGKに進化していた。世界最高との名声を得ている選手が、30歳を超えてプレースタイルを変えたという事実。これほど説得力のある例もないだろう。

ブンデスリーガとプレミアリーグ。最新式のゴールキーピングが最も定着しているのが、ドイツとイングランドだ。FC東京時代の権田修一が比較的早くこの守り方をしていたが、欧州に比べればJリーグはまだ過渡期といえる。例えるなら日本のGK業界は、ある意味で自動車のようなもの。ガソリン車もあれば、ハイブリッド車、新型の電気自動車も混在。いろいろな守り方をしているのだ。

そのなかで、日本でいち早く最新式のゴールキーピングを採用し、特筆すべき活躍を見せる存在がいる。J1柏の中村航輔だ。昨年はJ2にいた福岡でプレーし、J1昇格の原動力となった。今季は、古巣の柏に復帰。第6節から5試合連続の無失点試合を演じるなど高い守備力を見せている。

中村が時代の先端をいく現在の守り方を始めたのは、ユース時代からだという。1月に21歳になったばかり。柏ユースに入った6年前はドイツのマヌエル・ノイアーが10年南アフリカW杯に出場した年。すでに最新式のGKのプレーが知られていた時代だ。それを考えれば、われわれにとって目新しく映る守備の仕方は、中村にとっては当然なのだ。

「なるべく最後まで倒れないこと」がポイントと語るゴールキーピング法。中村はこのスタイルを志向した指導者と巡り合えたこと自体が幸運だったのではないだろうか。なぜなら、指導者の年代で現在の守備法を行ってきたGKはいない。自らの経験のない手探り状態の理論を、将来の日本を背負うかもしれない若い才能に教える。それは指導者として、よほどの覚悟が必要なはずだからだ。

しかし、そんな心配ももう必要ないだろう。4年後、このゴールキーピング法は日本でも確実に主流になっている。来月から開幕する欧州選手権。ほとんどのGKが最新式のプレースタイルを披露するはずだ。生きた教本にどっぷりと漬かり込む1カ月間。その状況では、どんなに頑固なGKコーチでも、頭の中身は確実に洗脳される。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。