どのようなチームにも、シーズン前に思い描く自分たちの理想像がある。難しいのは、目指しているそのサッカーが果たして正しいものなのかを、どの時点でチームとして認識できるかだ。

新しいシーズンで順調なスタートを切ったチームは、自分たちのやり方に早い時点で手応えを感じられるだろう。一方、結果が伴わないチームの選手たちは、試合内容は決して悪くなかったとしても自分たちの戦い方に疑問を持つようになる。

危険なのはその疑問がネガティブな思考へと変化し、良かった試合内容にも悪影響を与えるようになってしまうことだ。結果、負の連鎖に巻き込まれて、立て直しのきかない状況へ。下部リーグへ降格するチームのほとんどが、そのような経過をたどっている。

すべてのチームがシーズン前に目指したサッカーに近づける。その一番の方法は、プロ野球にならい、降格をなくすことだろう。成績を気にしなくていいのなら、いくらでも理想を追求できる。ただ、サッカーではそれはあり得ない。その中でチームの基本スタイルを貫けるかは、監督の求心力に負うところが大きい。

J1開幕から約2カ月。第1ステージの折り返しとなる第9節が行われた4月29日と30日、今季まだ白星に恵まれていなかった2チームが、待望の初勝利を挙げた。井原正巳監督率いる福岡と☆(曹の曲が由)貴裁監督の湘南だ。

勝ち方は絵に描いたように似通っていた。福岡はFC東京、湘南は横浜Mを相手にしたのだが、ともに数少ないチャンスを生かし後半に先制。その後、相手にPKを与えるという絶体絶命のピンチを、福岡はクロスバー、湘南はGK村山智彦のファインセーブで防ぎ、1―0の勝利を収めた。

勝ち点3を獲得したとはいえ、順位は第9節終了時点で福岡が17位、湘南は最下位の18位と前節から変わらない。それでも自らのスタイルを貫いて得たこの1勝は、両チームの選手にとって信じてきたものが間違いなかったということを再確認する上で非常に大きな意味を持ったのではないだろうか。

熊本地震の影響で1試合少ない福岡は開幕から7試合、湘南は8試合も勝利がなかったわけだが、選手たちが開幕当初と同じ気持ちで試合に臨み続けられたのは監督に対する信頼感が高かったことが基本にあるのだろう。Jリーグの中には、数試合うまくいかないだけで“目が泳いでしまう"監督もいるのだが、井原監督、☆(曹の曲が由)監督ともに基本線はまったくぶれない。それは、自分たちのやるサッカーを突き詰めているからだろう。

昨年の昇格プレーオフを制して5季ぶりにJ1復帰を果たした福岡。J2からの昇格組がここ数年残している成績を踏まえると、苦戦が避けられないのは予想できた。その状況下で井原監督が昨年から志向しているのが守備を安定させた上での素早い攻撃だ。選手の層を見ると、勝ち点を積み重なる上でそれが現実的だからだ。

FC東京戦後の会見で井原監督は「続けてきたことを出すこと。球際の強さやハードワークといった守備のベースをしっかりやること」が大事と語っていた。なかなか勝てない状況に陥ると変化を求めがちだが、伊原監督は急激な上積みはなくても着実に前に進む道を選択した。その考え方はリスクを限りなく排除するという井原監督の、現役時代のプレースタイルにも共通するものがある。

一方、8試合で19ゴールを許すなど失点の多さが気になる湘南。永木亮太、遠藤航、GK秋元陽太といった昨年までの守備のキーマンが抜けた影響は小さくない。それでも、湘南というチームが見る者の心を引きつけるのは、決して後ろ向きにならないからだろう。それは☆(曹の曲が由)監督の「攻守ともに自らが仕掛ける」という精神そのものだ。

感情をあらわにすることが格好悪いという近年の風潮のなかで、このチームには昭和の熱血ドラマのような空気が漂っている。技術的に足りない部分を気力と走力で補う。沈む夕日に向かって走り続ける純粋な気持ちを備えるからこそ、シーズン初勝利に涙を流せる選手がいるのだろう。

スポーツを見る時に、高い技術を目にしたいというのは当然だ。ただ、スポーツで感動させられる瞬間を振り返ると、技術よりも必死に頑張っている姿に接した場面であることが多い。そして、選手たちの頑張りを引き出すのは、監督の持つ度量だ。そう、監督は戦術を指示するだけの存在ではないのだ。

その意味で福岡や湘南を筆頭に、財政的には決して豊かとは言えないチームの監督の采配や頑張りに注目したい。それがリーグを盛り上げることは間違いないからだ。イングランド・プレミアリーグで初優勝を飾り、金満クラブに一泡吹かせたレスターのような存在。そんなチームがあれば、リーグは間違いなく盛り上がる。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。