リーグ戦終盤のタイトルが目の前にちらついてきた時点で、こんな試合を展開されたらサポーターも気が気ではないだろう。守備はかなりゆるい。ただ、そんなマイナス面を差し引いても、勝利という結末に導けるほどの攻撃力を備えている。それが、J1第1ステージ第7節終了時で首位に立つ川崎だ。

その戦いぶりを一言で表現すると、ドラマ仕立てのように浮き沈みが激しく派手。いうならばサッカー版「水戸黄門」なのだ。水戸黄門といえば、欠かせないのが絶大な威力を持つ「印籠」。そして、それを掲げるのが、助さんと格さんだ。川崎でその役割を担うのが、中村憲剛、大久保嘉人ということになる。だから、90分のなかで浮き沈みがありながらも、最後に彼らが印籠を出せば「めでたし、めでたし」で終わる可能性が高い。

その意味で、今季スタジアムに足を運ぶサポーターは一挙両得。ストーリーを楽しむとともに、勝利という結果を家に持ち帰ることができるのだ。

FC東京と川崎が対戦したJ1第7節も、目まぐるしい展開の試合だった。そして、優れたタレントがいれば「個」の力で結果をかなり左右できるというサッカーではよく言われることを証明するような内容だった。

リーグ戦で首位を行くチームは通常、攻守に隙がないものだ。ところが、川崎は笑ってしまうほど隙が多い。この試合でも開始4分にエドゥアルドが浮き球の処理を誤り、ネーサン・バーンズに独走されて先制点を許した。エドゥアルドのプレーは、大目玉を食らってもおかしくないほどの軽率なプレーなのだが、それを許している川崎・風間八宏監督の独特なサッカー観は何とも不思議だ。

自分たちの注意不足によるミスからの失点。普通なら「何やっているんだよ」となるところだが、川崎の選手たちは度量が広い。首位に立ちながらも開幕からの6試合で7失点を喫しているチームにとって、失点は織り込み済みなのだろう。リードされても慌てない。そして、サッカーを分析する「目」の持つピッチ上の監督がいることも強みだ。

「中盤の選手がフリーでボールを持っていても(FC東京は)どんどんラインを上げてくるんだよね」

大久保が語ったのは、FC東京の守備のちぐはぐさだ。DFラインを押し上げてオフサイドトラップを取るには、中盤のボール保持者へのプレッシャーは鉄則だ。それを怠るFC東京の守備は、いわゆる「ザル」。まして川崎には中村というパスの名手がいるのだ。

前半11分、その中村から大久保に浮き球の縦パスが出たとき大久保は「何で(マーカーが)いないのかな」と思ったという。この場面、FC東京は右サイドバックの徳永悠平がラインを合わせられず、オフサイドを取り損ねるミスを犯したのだ。当然、大久保はノープレッシャーで独走。通算得点記録を160に伸ばす弾丸シュートをいとも簡単に決めてみせた。

選手の格の差といえばそれまでなのだが、この試合の得点に至る場面では、W杯を経験したベテランと、そうでない選手の差が出た。FC東京が2―1とリードして迎えた後半32分、川崎は大久保がPKで2―2と同点とした。そのPK獲得も大久保の老練さが光った。小林悠の縦パスを受け一度はシュートモーションに入ったがキックをストップ。ステップを踏み直したときにFC東京の米本拓司に軸足を引っ掛けられたのだ。

時間とスペースが限られたなかで、可能性を広げようとした大久保。PKが獲得できるのではとの予測もあったのだろう。一方の米本は、味方がシュートコースを切っていたことを考えると、この場面で足を出す必要はまったくなかった。

後半ロスタイム、物語を完結させるダメ押しの4点目が決まった。最後に印籠を掲げたのは中村だった。センターサークル付近で奈良竜樹のパスを受けると、右サイドに流れるコースをドリブルで突き進んだ。

この時点で川崎は3―2とリード。当然、キープという選択肢もあった。しかし、中村は状況を見て判断を変えた。「最初は時間を稼ごうと考えた。でも、誰もいないからコースを変更しようと思った」。追走する米本が「(中村は)時間稼ぎをする」というセルフジャッジをしてスピードを緩めたその瞬間、中村は急激にスピードを高めた。そして、内側に切り込んでの完璧なクロスを逆サイドのエウシーニョに合わせヘディングシュートを導き出した。

「さすが経験のある選手。技術も素晴らしい」

風間監督の感想は、敵味方を問わずスタンドを埋めた観衆の総意だったのではないだろうか。それほどに素晴らしいプレーだった。

サッカーは守備が堅くないチームにタイトルはないといわれる。それに反する戦いぶり。いまだ無敗が続く川崎の劇場型サッカーは、どこまで続くのだろうか。印籠の威力を確かめにスタジアムに足を運ぶのも一興だ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で6大会連続となる。